科研費による学会の年会費支払い

 

  • 以前の所属先では、個人研究費による学会の年会費支払いができたので、新しい勤務先でそれが可能か事務の方に質問したところ、「個人研究費ではできませんが、科研費からはできます」と言われて、思わず「えっ!?」と驚きました。
  • 学会の年会費は特に研究課題に関わる活動をしていなくてもかかるものなので、科研費からの支出はできないという理解でした。
  • 「最近規定が変わってできるようになりました」と言われて、学振のサイトで科研費FAQをみると、「当該学会の活動に参加することが、科研費の研究の遂行のために必要であるならば可能です」とたしかに記載されていました。
  • 個人的には嬉しい変更ではありますが、「課題遂行のために必要」という点が研究者個人の判断に任せられる場合には、いくつでも学会の年会費に適用できてしまうのでよいのかなとも思いました。

データに強くなる

 

  • マクロデータを扱っていると、G先生の授業に出ていた時のことをしばしば思い出します。
  • G先生の授業スタイルとして、「今日本に失業者って何人いるの?」、「失業者と無業者の違いは?」、「毎月勤労統計調査と労働力調査が示す労働時間は同じ?」といったことを学生にガンガン質問してくるのですね。公的統計を見る上で、定義を確認することや、比率だけではなく絶対数にも注目する重要性を学びました。G先生の初めの単著も、中高年男性の失業者が絶対数としてそれほど多くないことに気づき、若年雇用の問題に焦点を当てることになったというエピソードも紹介されていました。
  • G先生自身はデータへの習熟に関しては意識して取り組まれてきたそうで、「数学では周りの院生に絶対に敵わないと思ったから、データに徹底的に強くなろうと思った」ということでした。院生時代は暇さえあれば、就業構造基本調査の集計表を眺めていたということで、e-Statで確認できるようになった今でも、図書館に潜って紙の集計表を見るべきだともおっしゃられていました。

 

単数名詞としてのdata

 

 英文記事の見出しで、"data shows ..."となっており、「あれ、dataはdatumの複数形だからshowsとなるのではおかしいのでは?」と思いました。

 調べてみたところ、dataを単数扱いするのはだんだんと受け入れられているとのことでした。他にも、agendaはもともとagendumの複数形であったものの、現在では単数名詞として使用されるのが一般的になったということも勉強になりました。

 

クロード・スティール(2010=2020)『ステレオタイプの科学――「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか』

 

 

  • どうも自分はマルチタスクが苦手で、つまり目の前の作業にかかりきりになってしまうことがよくあるので、授業準備と大学関係業務と研究を並行してどう進めていくのかという点で、まだまだ課題を感じます。
  • これも授業に関連して買った本ですが、定期的なインプットを続けられるようにしていきたいですね。

 

  • 原題のWhistling Vivaldiとは、ニューヨーク・タイムズのコラムニストであったブレント・ステープルズという人が若い頃に、道を歩いている時に自分が黒人男性であるということで脅威を持たれないように、ヴィヴァルディの曲を口笛で吹き、自分は高尚な白人文化を持っているように振る舞うことで、周囲の人々の緊張が解けていくのを感じたというエピソードに基づいているようです。
  • 人をある種の固定観念に基づいて見るときの鋳型である「ステレオタイプ」について、あるステレオタイプに自分が晒されるのではないかという「ステレオタイプ脅威」が人々の様々なパフォーマンスに影響するという社会心理学の実験結果をまとめたものになっています。
  • このステレオタイプ脅威とは、ある社会的アイデンティティを持つ人々が自らの望むことを実現する上で対処しなければならない状況という、「アイデンティティ付随条件」の1つとして捉えられ、これによってテストの成績の男女差や人種間の社会的分断をも説明する要因であるという主張されます。ただし、ステレオタイプ脅威とは状況依存的で、人々がステレオタイプ脅威を気にしなくてもよい状況を人為的に作り出すことで、パフォーマンスへのネガティヴな影響も抑えられるという証拠や、そこからのインプリケーションも示されます。
  • 様々な実験研究に関して、著者自身がどのような批判を受けてきたかなど、対立仮説を丁寧に退けていくプロセスが記述されており、非専門家を念頭に置いて書かれた本でありつつも、社会心理学の研究デザインについていろいろと学べる構成になっていました。

 

雑多なメモ

  • 黒人学生は、SATの成績が同レベルの白人学生に比べて、大学での成績が振るわないという事実
  • 数学のテストが始まる前に、「これから受けてもらうテストでは、女性の成績はいつも男性と同じです」という説明をくわえたグループでは、女子学生の点数は基礎学力が同程度の男子学生と差がなくなった
  • 自分が所属する集団に関するネガティヴなステレオタイプを追認するリスクがなくなることで、成績不振が消えた
  • ステレオタイプ脅威は、差別などの悪意が存在しなくても生じる可能性がある
  • 付随条件(contingencies)とは、行動主義心理学に由来する条件で随伴性とも呼ばれる→ある行動がどのように評価されるかが、その環境にいる人々の行動を規定するようになるという考え方
  • アイデンティティと関連する行動や結果を変えたいなら、そのアイデンティティの内的兆候を変えるのではなく、その内的兆候が適応している環境を変えることに力を注ぐべきである
  • アフリカ系アメリカ人政治学」の授業に出席する白人学生の心理状態に見られるように、ステレオタイプ脅威は状況次第で誰でも経験しうるものである。

 

 

ハドリー・ウィッカム&ギャレット・グロールマンド(2017=2017)『Rではじめるデータサイエンス』

 

Rではじめるデータサイエンス

Rではじめるデータサイエンス

 

 

  • 以前にも一度読んだのですが、あらためて一通り動かして、ようやくある程度は使えるようになってきました。dplyrでパイプ演算子を使うと非常に直感的でわかりやすいですね。
  • 本書の出版後にtidyrが更新されているようで、pivot_longer()の使い方についても少し調べました。
  • R Markdownで日本語を含むpdfを出力する設定に少々手惑いましたが、いちおうできるようになったので、授業の資料もこれで作っていきたいと思います。

 

2020年4月6日

 

  • 勤務先の大学、院生の授業料免除申請書類に指導教員のコメントとサインが必要なのですね。書くこと自体はやぶさかではないのですが、正直なところあまり意味があるのかなあ(審査にどの程度使われているのか)と思ってしまいました。しかし、他に「学業成績優秀」であることに正当性をもたせるのが難しいということがあるのかもしれません。まだしもGPAを使うべきではないかとも思いましたが、留学生など他大学出身者を比較するのが難しいのでしょうか。
  • なんか研究室がめっちゃ寒いなと思っていたら、今日から集中管理で暖房が入らなくなっていたようです。しばらくの間、20度設定の冷房がガンガン効いていました。しかし4月上旬に切り替わるのはちょっと驚きで、実際本日の最低気温は5度の予想なのですが…
  • 大学生協の商品カタログと一緒に、ゼミ・サークル合宿のパンフレットが入っていて、ちょっと切ない気持ちになりましたね。大学生協も特にトラベル関係の打撃はやはり相当なものでしょうね。

苅谷剛彦・吉見俊哉(2020)『大学はもう死んでいる?――トップユニバーシティーからの問題提起』

 

 

  • 吉見先生が『「文系学部廃止」の衝撃』や、『トランプのアメリカに住む』で人文系の知がどのような意味で役に立つのかや、ハーバードと東大の組織構造の違いなどについて問題提起をされているわけですが、その関心を苅谷先生にぶつけ、苅谷先生がオックスフォードのカレッジの伝統から大学をいかに捉えられるかや、あるいは「(ポスト)キャッチアップ型近代」の概念を紹介することで、日本の知の生産様式、人材養成の歴史的・現代的な特徴について議論に厚みをくわえているというスタイルです。
  • 日本の大学では教授が権限を持ちすぎていることによって、多忙化してしまっていることを吉見先生が指摘されていましたが、苅谷先生はオックスフォードではジョブ・ディスクリプションが明確化されていることで、責任の範囲が定まり、その外になる業務は拒否できていると指摘いました。ジョブ・ディスクリプションの曖昧さという視点は、日本の大学組織のみならず、日本の雇用システム全般の問題とも関連しうるものですね。
  • カレッジとユニバーシティーの関係について、グローバルなアカデミック・キャピタリズムの中での新たな課題に対応するために、ユニバーシティーが役割を強めていくようになった過程が解説されています。日本も、大学院重点化の際にここの学部を横断するような新たな重層構造が形成されるべきだったにもかかわらず、それができなかったというのが吉見先生の批判点です。結局のところ大学教員は保守的で、業務が単純に増えることはやりたがらないので、いかにインセンティブの構造をユニバーシティーがつくっていくのかというのが、2人に共通した問題意識として感じられました。
  • 4章のAI技術の発展の中での人文知の役割について、AIは既存のデータの蓄積の中での連続的な知を扱うものでなので、非連続的な知や価値は生み出せないというのは確かに現状はそうかもしれませんが、AIに対する脅威で指摘されているのはそうした非連続的な知も近未来に生み出すようになる(シンギュラリティ)ということではないかと思います。
  • 5章の外国人教員比率を高めることに関して、承継教員のポストを純増させることなしには難しいというのはその通りだと思いますし、アファーマティブ・アクションの問題を考える際にも重要な視点だと思いました。たとえば、国会議員の女性比率を短期的に大きく高めようとする際に、定員が同じであれば現職の男性議員に立候補を断念してもらう必要があり、それは抵抗が強くなるので、定員を増やすことなしには難しいという意見を聞いたことがあります。
  • 東大のGLP-GEfILという英語ベースのグローバルリーダー育成プログラムの存在は知りませんでした。英語のみの授業で学位がとれるという教養学部のPEAKについては知っていましたが。全学的な改革にくらべてやりやすさもあるでしょうし、東大生全員が英語を使って仕事をしたりいわゆるグローバル人材になったりするわけでもないので、このように少人数のプログラムというのはよさそうですね。しかしやはり資金調達や、部局を超えた連携については大変のようで、吉見先生が企業に折衝に行ったというエピソードはご苦労が感じられました。
  • 良くも悪くも、苅谷先生も吉見先生もエリート的な大学を「あえて」理想化して議論するところがあると、あらためて感じました。こういう点は矢野先生の著作を読んでいるときに、強いコントラストを感じるところでもあります。