三島由紀夫『葉隠入門』


葉隠入門 (新潮文庫)

葉隠入門 (新潮文庫)

三島由紀夫の評論は初めて読んだ。小説は『仮面の告白』、『金閣寺』を今までに読んでいたが、評論の方は三島の人生観が直に見えて、違った面白さがある。

葉隠』は江戸時代中期に山本常朝という人物が、武士道について書いた本であり、「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」という一文で有名だ(ただし、三島が批判しているようにこの文だけを取り出すと『葉隠』の内容が誤解される)。

本書は三島によるその書評である。

今の時代に読むと、そこで論じられている女性の社会的地位や、死生観は古臭く感じられる。それは三島が批判しているアメリカ的民主主義社会の到来による弊害だったのかもしれない。しかし、これらはいずれにせよ本質的な点ではない。

寧ろ、三島が『葉隠』を取り上げて最も述べたかったのは、『人間の内発性』を尊重することと『主体と思想の乖離』を批判することであったと思われる。

理性を偏重するあまり、人間が内面に持つエネルギーが損なわれてしまうこと、また知識人を中心として、自らの思想と行為があべこべになってしまっていること、これらへの批判が、三島が『葉隠』に見出したエッセンスであったように思われる。

三島はその教訓をよく理解し、忠実に守った。だからこそ彼は、1970年に陸上自衛隊市谷駐屯地で自決した。そう思われるのである。