谷崎潤一郎『痴人の愛』

痴人の愛 (新潮文庫)

痴人の愛 (新潮文庫)

初の谷崎文学。ほんとは『陰翳礼賛』が読みたかったのだが、立ち寄った本屋になかったので、これを購入。

衣装や表情の詳細な描写や美的感覚はやはり昔だなあと思わせるところが多いものの、一方で大正の終わりにこれほど自由な恋愛観を描けたことに驚かされる。

要約すれば、ある男が喫茶店で見かけた美貌の少女を自らの望むように育て上げようとし、最後には逆に自らがうまく操作されて堕落してしまうという馬鹿馬鹿しい話だ。
タイトルは「ナオミ」に騙されていることは分かりつつも、敢えてそれを喜んで受け入れるというように、主人公が「痴人」であるところから来ているのだが、これを単に馬鹿馬鹿しいと批判できないところが、本作が小説として成功している部分だと思う。