森達也『視点をずらす思考術』


視点をずらす思考術 (講談社現代新書 1930)

視点をずらす思考術 (講談社現代新書 1930)

主にマスメディアからの距離の取り方、すなわちメディアリテラシーについて、短い論文をまとめた本。

現代、特に日本ではニュースや様々なものの見方をマスメディアに負っているところが多い。
テレビと新聞は同一の資本が結びついた大手数社からなり、そこから外れた会社の影響力は著しく弱い。インターネットTVが発達してきてはいるものの、米国などに比べれば、ニュースのチャンネルはまだまだ少ない。

本書が警告するのは、マスメディアが統治権力の監視という自らの重要な機能を忘れているという事態だ。
とりわけ、90年代のオウム真理教団による一連の事件以降、マスメディアが統治権力に異議申し立てを行うことが少なくなり、人々の不安を煽り、原因を何かに帰属させるような傾向が見られるようになった。


マスメディアに従事する人々が決して「無能」なわけではないのだと思う。営利を求める企業である以上、視聴率・部数が取ることが目的なわけだ。そして、世論が善悪を二分するような単純な図式を求めるのならば、マスメディアがそれに乗っかるのは「仕方がない」。

いわばマスメディアが世論を形成し、世論がマスメディアの扱う内容に影響を与えるという循環的な関係があり、どちらかを一方的に責めることはできない。この社会の仕組み全体を考慮して議論しなければならないのであって、それゆえに問題の根は深いと思った。