阿部真大『搾取される若者たち―バイク便ライダーは見た!』

搾取される若者たち―バイク便ライダーは見た! (集英社新書)

搾取される若者たち―バイク便ライダーは見た! (集英社新書)

少し軽めの本でも。新進気鋭の若手社会学者のデビュー作。

都市部において、小型の荷物を輸送するのに使われる「バイク便」というサービス。本書は、このバイク便の世界に入り込み、自らも「バイク便ライダー」として働いた著者の経験に基づいて書かれている。


「好きで好きでしょうがないことを職業として考えてみませんか?」
という『13歳のハローワーク』の中のメッセージに象徴されるような仕事における自己実現志向の言説が、不安定な職業においてはいかに危険であるかということを示した本だ。

著者は「自己実現系ワーカホリック」という言葉をバイク便ライダーたちに当てはめる。趣味であるバイクを仕事にするがゆえに、彼らが際限なく働き、常に危険な事故と隣合わせである状況にあると指摘する。
そして、このような「自己実現系ワーカホリック」はバイク便ライダーだけに限らないと著者は言う。「高齢者とのコミュニケーションが楽しい」というケアワーカー、年棒制のフリーのSEなど、今の社会にはこのような職業が増えてきているという。

仕事における「夢」が否定されているわけではない。「リスク」との比較考量が重要であるというわけだ。そして、その重要性は教育や啓蒙によるだけでは効果がない。社会的に新たな連帯やリスク回避の仕組みができていかなければいけないという著者の主張は、当たり前すぎるが、それゆえにもっと主張されてゆかなければならないかと思う。