苅谷剛彦ほか『教育改革を評価する―犬山市教育委員会の挑戦』

検証・地方分権化時代の教育改革 教育改革を評価する―犬山市教育委員会の挑戦 (岩波ブックレット)

検証・地方分権化時代の教育改革 教育改革を評価する―犬山市教育委員会の挑戦 (岩波ブックレット)

「教育の地方分権」を推進し、独自の政策、全国学力調査への不参加を表明していることなどで有名な愛知県犬山市の教育を評価した本。

市独自の副教材や少人数学級制、教師の授業研修、児童・生徒同士の「学びあい」など様々なことを導入しているが、ポイントはそのどれもが全国どこでも実施可能であるということだ。むろん財源は必要になるが、犬山市は特別裕福な自治体ではないし、構造改革特区など特別な指定を受けているわけではない。

しかも、そのような政策が学力格差の縮小などの効果を上げている。果たして学校選択制やバウチャー制の導入は本当に必要なのかといったことにも疑問が出てくる。


ところで本書は、単なる評価ではなく「システム評価」という言葉を使っている。例えばある政策を実施するために財源が必要になったら、どこからか調達するか、どこかで削減をしなければならない。教育も様々な要素が関連するシステムをなしており、全体としてとらえなければならないというものだ。そのため、本書における調査は児童・生徒への質問紙調査だけではなく、教員・保護者への質問も行っている。

このような貴重なデータがあるのだから(そして回収率も驚くほど高い)、もう少し教員、児童・生徒・保護者の要因をクロスさせた結果が見たかった。例えば、学力格差の縮小について、階層と「学びあい」を同時に変数として入れるとか。