飯尾潤『日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ』

日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書)

日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書)

この前ネットでこの著者の存在を知り、なかなか面白いことを言う人だなーという印象を持ったので著書を購入。サントリー学芸賞と読売・吉野作造賞をダブル受賞しており、評価の高い本であるようだ。

非常に勉強になったのだが、畑違いの本を読むとやっぱり時間がかかる。内容も何となく分かった気になるが、説明しろと言われると難しいし、本書の限界は何かというとうまく答えられない。


頑張って内容を消化すると次のようになると思う。
戦後日本は、議院内閣制を採用してきたが、実際にはそれが正しく機能してこなかった。いわゆる「55年体制」以降、長らく自民党が議会において多数派であったため、国会において異なる政党が政策を戦わせるという政党政治が行われてこなかったからだ。それにもかかわらず、日本の政治・行政がある程度民意を反映し、発展できたことの理由として著者は官僚の存在による。各省庁の官僚は政治家への政策提言をしていることがよく注目されるが、それだけではなく地方自治体や特殊法人などの関連団体と様々な利害を持ち、その要望をくみ取ることで結果的に民意を反映してきたという。このような「官僚内閣制」が戦後日本の統治構造における特徴だということだ。
官僚内閣制が議院内閣制であると錯視することで、様々な誤解が生じてきた。例えば、日本の首相はしばしばアメリカの大統領と比べられて、強力なリーダーシップを発揮することができない、だから日本も大統領制に移行するべきだということが言われる。しかし、これは本来の議院内閣制に対する誤解である。大統領制を採る国の場合、大統領と国会議員のそれぞれが直接選挙によって選ばれるため、それぞれが異なった政治的正当性を有する。しかし、議院内閣制を採る国では、国民によって選ばれた国会議員の中から首相が選ばれる。すなわち、立法権行政権が同じ権力の下に存在するということになるわけであり、議院内閣制の国において三権分立を主張するのは間違いだというわけだ。

長らく官僚内閣制と呼べる統治構造を持っていた日本であるが、90年代以降の政治の変化は、日本国憲法が意図した議院内閣制に移行しつつある。細川内閣において作成された選挙制度改革法案により、小選挙区比例代表並立制への変更が行われた。これにより、イギリスのような二院制のもとでの政治選択選挙が可能になりやすくなった。また小泉内閣において行われたことは、首相による政治主導という、より本来の議院内閣制に近い変化であった。

これからの日本の政治は、より議院内閣制が機能する形になるべきだという。そのためには、政権交代が常に起こりうるような状況でなくてはならず、各政党は異なった政策を戦わせ、有権者に選択してもらう選挙になる必要があると著者は言う。


戦後、日本の統治構造について価値中立的に分析するというようなことが最初の方に書かれていたのだが、著者は90年代以降の変化をだいぶ肯定的にとらえている気がする。特に小泉内閣の政治を、首相がリーダーシップを発揮できるようになったといういい側面しか見ていなくて、ポピュリズムの危険性とかは全く出てこなかった。議院内閣制と独裁、ないしは全体主義の関係を著者はどう捉えているのだろうか。