佐藤俊樹『桜が創った「日本」――ソメイヨシノ 起源への旅』

桜が創った「日本」―ソメイヨシノ 起源への旅 (岩波新書)

桜が創った「日本」―ソメイヨシノ 起源への旅 (岩波新書)

駒場佐藤俊樹先生の新書。ソメイヨシノの起源や、桜への思いを述べた人々の言説を重層的にとらえ、「日本」がどのように構築されてきたかを明らかにしている。

・今でこそ桜=ソメイヨシノというイメージがあるが、ソメイヨシノが出現し始めたのは明治時代になってから。

・戦前、戦後とソメイヨシノ急激に全国で育ち、その一様な風景が「日本」というナショナリティと結びつけて語られてきた。

ソメイヨシノが明治になって登場したからと言って、ソメイヨシノ=新しいからダメ、ヤマザクラ=旧くて伝統があるからよい、とするのは疑似的な伝統意識によるものである。同様にして、その図式を否定することも「伝統がない」という伝統に依拠することになってしまう。


ソメイヨシノが接木や挿木で増えてきた「クローン」桜であるということをまず知らなかった。

それから、新書なのでかなり一般向きに書かれているけれど、ソメイヨシノが増える→「桜=ソメイヨシノ」という人々の語りが増える→さらにソメイヨシノ増える、という循環論的因果の図式や、日本人がソメイヨシノを増やしてきたと見るのではなく、ソメイヨシノをシステムと見て、人間という環境の中で適応してきたと見る、システム論的な図式がすごいと思った。