東京大学社会科学研究所『雇用システムワークショップ』

ワークショップに行ってきました。

http://das.iss.u-tokyo.ac.jp/future/koyou.html

○第3回 雇用システムワークショップ

日時: 6月4日(木)17:30〜19:30

テーマ:「生涯進学率100%への道−後期大衆化段階の大学問題」

報告者:矢野眞和(昭和女子大学


1.「後期大衆化段階」の大学問題;トロー・モデルを疑う

2.社会的矛盾を孕んだ「偽り」の全入時代

3.進路選択の社会・経済・教育モデル

4.生涯進学率100%への道―「正統な」全入時代への転換

・大学は決して過剰ではない。進学率は50%に達しているが、50%がピークになり、その後に安定する財・サービスはありえない。

・今は、経済力さえあれば、学力がなくても誰でも進学できる「偽り」の「歪んだ」全入時代である。学力が平均より低い層の2,3割が進学しており、学力が平均よりも高い層の2,3割が進学していない。

・30代以降で、大卒賃金と高卒賃金の差が大きく拡大している。高卒の人たちが学び直せる機会を作り出さなければならない。しかし、社会人の大学入学を阻んでいるのは、授業料の高さ。2.7兆円(消費税1.2)%で授業料が無償化でき、1.1兆円(消費税0.5%)で私立授業料を国立並みにできる。

労働市場の側の需要が高まらないとダメな部分もある。しかし、それが変わるのを待つよりかは、大学を無償化することで変化することを期待した方がよい。

・授業料を無償化すると、大学間を移動する学生が増えると考えられる。よって競争が高まる。

・若い人が大学に溜まっているのは日本だけ。諸外国では何割かは社会人学生がいる。日本では新卒一括採用という就職システムが若者を脅迫しているからこのような状況になっている。

・なぜ、大卒者の親の子供が大学に進学しないのか? →低所得と高校教育の経験が進学を断念させている

・「偽り」の全入時代が中間層を分断する。基礎学力さえあれば、経済力がなくても誰でも進学できる正統な全入時代へ転換するべきである。

・お金のない学生は、借金漬けになるしかない。「奨学金」という名前はおかしく、「国立学生ローン銀行」と呼ぶべきである。20年もかけてこの借金を返す仕組みになっているので、若い世代の消費が伸びない。

・家計の貯蓄傾向を見ると、子どもが小中学生の頃に貯め込み、大学に入ったらそれを吐き出すという形になっている。よって、民主党の言う子ども手当を数兆円かけてやるよりも、大学の授業料を無償化すべきである。小中学生がいる家庭に援助をすると、教育熱心な家庭では、塾・おけいこごとに使われ、教育に熱心でない家庭ではお酒に消えるだけ。

・研究の上では、階層は重要であるが、政策提言をする上では意味がない。

・60歳以上は、マルクス主義の亡霊が社会民主主義への否定的な態度を持たせ、40・50代では自由主義の亡霊が再分配に否定的な態度を持たせている。今の20・30代はそう否定的ではない。

・年金制度がダメになることで、ますます家族主義が加速する恐れがある。すなわち、親が子どもへの投資傾向を高め、将来のリターンを期待するようになる。

・40、50年先のことは、結局分からない。だから個人に任せるのではなく、助け合いのシステムが必要。

・法制度をいじくっても教育は変わらない。財の分配の発想が必要。しかし、「教育は大事なんだけど、○○の方が…」、「教育は大事なんだけど、お金ではない」という意見が強い。

・学び習慣は生涯の資本。学生時代にどれだけ本を読んだか、勉強したかが重要である。パス解析をすると、学校時の学びは直接所得には影響がないが、職業時の学びにつながり、所得に間接的な効果がある。

・極端に言えば、カリキュラムはなんでもよい。学生時代に学ぶ習慣が身につきさえすれば。学生時代に学んだ経験がないと、職場で学ぼうと思わない。



主張としては知っていることも多かったが、改めて聞いても素晴らしい話ばかりだった。到底こういった研究は真似できないけれど、もう少し教育経済学を勉強しようと思った。

こうした優れた方の主張が聞き入れられなかったり、本が次々と絶版になったりしてしまっていることは、極めて残念なことである。