天野郁夫『教育と選抜の社会史』

教育と選抜の社会史 (ちくま学芸文庫)

教育と選抜の社会史 (ちくま学芸文庫)

「学歴社会」として名高い日本の教育はどのように成立したのか。本書は、近代日本の産業化の過程を辿り、(1)階級構造、(2)学校教育制度、(3)試験制度、(4)資格制度、(5)職業構造、(6)組織構造、(7)社会規範という要素から、歴史的・国際的に分析したものである。

教育社会学の中心的な概念に「選抜」と「配分」がある。機能主義的な枠組みに基づけば、産業化した社会においては職業の社会的地位が分化し、ハイラーキカルな構造をとる。その構造は、社会の維持・発展上の機能的な重要性と対応しており、社会の側からすればこの職業構造に適切に人材を配分しなければならない。すなわち、より有能な人間を選び出し、より適切な職業へと割り当てることが重要になってくる。

このような選抜と配分の過程において、学歴の獲得が職業に就くことに結びつくことで「学歴主義」は誕生する。
しかし、日本におけるその仕組みが他国と異なるのは、学校が特定の階級と結びつくことなく、(実際には教育費の制約などがあったものの理念としては)開放的な性格を持っていたことである。それゆえに、多くの人々の上昇移動へのaspirationを加熱することになった。
また、ヨーロッパにおいては長い間学歴は官僚と専門職としか結びつきを持たなかったが、日本においては早い段階から学歴が企業の管理職と結びついた。
さらに、日本においては「業績」と「平等」という産業社会を支える価値が早期に確立され、政策的にも支持されてきた。

ドーアが言うように「学歴主義」は日本だけではなく、広く産業社会に見られるものであるが、日本におけるその起源は明治初期からの以上のような過程に根ざしているということである。