東京大学社会科学研究所 第4回雇用システムワークショップ

http://das.iss.u-tokyo.ac.jp/future/koyou.html

○第4回 雇用システムワークショップ

日時: 7月9日(木)13:00〜17:30

テーマ1:「なぜ有期契約なのか?:安定雇用への道筋」

報告者:佐藤博樹東京大学社会科学研究所

テーマ2:「現場からみた雇用システムのこれから」

報告者:荻野勝彦(トヨタ自動車

○前半の佐藤博樹先生の話は、いかに有期契約を安定させ、新たな正規社員モデルをつくり出すかというもの。

○正社員/非正社員という二元論的な理解は現実を正しく表しておらず、正規雇用/常用・非正規雇用/臨時・非正規雇用という三層構造で理解されるべきである。現在は、常用・非正規雇用比率が上昇した時代であり、有期雇用でも継続的に雇用されている者が増加していると考えられる。

○有期契約でも契約更新が想定されたも者と短期雇用の有期契約社員が併存しており、前者の比重が大きい。

○また、有期契約であっても期待する勤続期間は契約期間にかかわらず長いので、「特約のついた期間の定めのない労働契約」を設けることは、雇用者・労働者の双方にとってプラスである。

○ここでいう特約とは、勤務地や職種等に対する合理的な限定が付されている場合において、その勤務先や職種等での仕事の継続ができなくなった場合は、解雇できるとするものを意味する。

○会場からの質問では、「有期契約ならば、その期間内では解雇されるおそれははないが、ここでいう特約のついた労働契約は、合理的な限定があればいつでも解雇できることではないか」とか、「特約によって勤務地や職種に限定をつけても、将来賃金が上がってゆく見通しがないと、やはり駄目なのではないか」ということなどが言われていた。

○「特約のついた機関の定めのない労働契約」はあくまで一つの対処法にすぎず、それと合わせてキャリア・ラダーなどをつくり出してゆく必要性があるということだった。

○後半のトヨタ自動車・荻野氏の主張は、いかに従来の日本型雇用システムを調整しつつ継続してゆくかというものだった。

○日本の雇用システムは、長期雇用を前提として、企業内部で人材を育成し、企業内部で昇進をさせてゆくという効率的なシステムであった。

○ところが、格差社会を批判する文脈では、自由主義論者からは「硬直的な解雇規制と年功賃金が労働市場の機能を阻害している」と言われ、社民主義者からは「労働市場の二極化・非正規労働の増加が格差拡大・少子化をもたらした」と言われ、どちらからも非難されている。

○では、同一労働・同一賃金の職務給を中心都市、社会横断的な職種別労働市場を構築せよ、と主張する「ジョブ派」が正しいのか。それはありえない。

○同一労働・同一賃金は、企業内ではたいへん重要であるが、社会全体として行うのは、日本では難しい。業種・職種が同一でも、企業業績が異なれば賃金水準が異なるのは日本では当たり前である。

○これからも日本の強みあであるメンバーシップ型・長期雇用中心の雇用システムを整備すべき。その中で、正規雇用非正規雇用の二極化を、中間的な雇用契約を認めてゆくことで解消してゆくのがよい。

○企業の人事制度が非合理的なのはある意味当たり前で、それは労使の折半でつくられてゆくもの。これからも労使コミュニケーションをよくしてゆくことは重要。

○会場からの質問では、「若者が徐々にキャリアを形成してゆくということを認めるのであれば、もう少し中途採用は増えてもよいのではないか。未だに日本企業が新卒一括採用を堅持しているのはおかしい」ということや、「日本型雇用システムは家族のあり方とも連動してきた。非正規雇用が拡大した現在、このシステムを維持してゆくことは、今後の家族形成にどのような影響をあたえてゆくか」ということが提起されていた。