ルース・ベネディクト『菊と刀―日本文化の型』

菊と刀 (講談社学術文庫)

菊と刀 (講談社学術文庫)

著者が日本に一度も来ずにこの本が書かれた、ということが信じられない。日本の文化の型(pattern of culture)の分析の鋭さもさることながら、その基になっている膨大なデータをよく収集したなと思う。ハチ公の話や『坊っちゃん』、『四十七士物語』など、日本人には馴染みのある作品も出てきて深みが増している。


本書の重要っぽいところをメモしておくと、

文化人類学の方法論について。大規模な統計調査は、すでに理解されている事柄について追加的な知識をもたらすにすぎず、その基になっている観念・思想・行動は質的な調査を行われなければわからないという主張[1章]。また、ある国において真に重要なことは、子どもの育て方に現れるという文化人類学の知見に基づいた分析[12章]。

■秩序と階層制度への日本人の信頼について。「各々其ノ所ヲ得」という言葉に示されるように、自分が家庭や国家の中で適切な位置を占めることが重視される[3章]。

■日本人の行動を基礎づける「恩」の原理への注目。天皇や家族、主君から授けられる「恩」とは無限の債務であり、返済しなければならない。これを返済する行為が「報恩」であり、徳となる[6章]。

■日本とアメリカの道徳規準の違いについて。道徳の絶対標準が信じられ、良心の啓発を頼みにする社会は、「罪の文化」、世評が人々の行動を左右し、外面的な強制力にもとづいて善行が行われる社会は「恥の文化」、と分類することができ、アメリカは前者、日本は後者に当てはまる[10章]。

■自己訓練の概念が広く人々に浸透していること。アメリカではふつう、自己犠牲として考えられるものがに、日本においては「能力」を養う自己訓練、すなわち修養として捉えられる[11章]。