濱口桂一郎『新しい労働社会―雇用システムの再構築へ』

新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)

新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)

著者の専門は労働法でありながら、社会学的な視点も多分に含まれていて面白い。最近、岩波新書もだいぶ軟らかい本を出すようになってきているけれど、本書は学術的な批判にも十分耐えうるほど水準が高く、こういう新書がもっとたくさん出ればよいなと思う。


著者の考えには基本的に賛同できるのだが、全体的なことで2点ほど。

一つは、序章で日本的雇用の本質は、雇用契約が職務(ジョブ)を単位として締結されているのではなく、職務が特定されていないメンバーシップ契約にあるという点について。このジョブ/メンバーシップという区分が本章では明示されない。分析枠組みとして、個別のテーマを語る上でもその都度参照される方が分かりやすかったと思う。

またもう一つ、第4章のテーマである「産業民主主義の再構築」について。企業別組合を正社員限定のものではなく、非正規労働者を含めた職場の代表組織として再構築してゆくことが提唱されているのだが、なぜ産業民主主義、あるいは集団的合意形成でなければならないのかが、論理的に十分説明されていない。むしろ政治がトップダウンで、非正規労働者も包摂する組織を定めてしまう方が早いのではないか、という思いを拭えなかった。