仁田道夫『変化のなかの雇用システム』

変化のなかの雇用システム

変化のなかの雇用システム

もっと早く読むべき本であった。

労働経済学・労使関係論の視点から、過去から現在までの日本の雇用システムを実証的に分析したもの。全13章はすべて初出があるため、論文集といった感じがする。


第5章、「年功賃金の『修正』」が一番興味深かった。
1980年以降について、賃金センサスで年功賃金を調べる際、男性標準労働者に関して賃金カーブを描くと、年齢による上昇度合は近年になって下がってきているように見える。しかし、すべての男性労働者をこみにして若年労働者と中高年労働者の賃金を比較すると、近年になって年功賃金度は上がっているという、逆の結果が得られる。
この間に定年延長が進んだこと、高学歴化が進んだこと(大卒労働者は中卒労働者よりも離職率が低い)により、同一職場への平均勤続年数が全体として増加したことから、年齢別の賃金格差が高まったように見えるということ。

「年功賃金」と呼ばれるものが、年齢と勤続年数の混ざり合った、しばしば曖昧なものであり、かつ通念として受け入れられているものが、意外と実態はそうではない。著者が言うように、雇用という領域はとかく常識が裏切られやすい。