山口一男『ダイバーシティ―生きる力を学ぶ物語』
- 作者: 山口一男
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2008/07/11
- メディア: 単行本
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私は、社会学者の私だからこそ書ける文学があるのではないかと考え、本書を執筆した。
社会科学の醍醐味は、社会と、そこにおける人々の生活について、誰もが日常見ていながらそうとは気づかない何かに、気づくようになれることにある。
同時に、社会科学的な視点や発想を身につけることのできた者は、社会の中における自分についてよりよく知り、より良く生き、よりよい社会をつくるのに貢献することができると考えている。
[iii]
「六つボタンのミナとカズの魔法使い―社会科学的ファンタジー」、「ライオンと鼠―教育劇・日米規範文化比較論」という二篇が収録されている、「文学としての社会科学」。
前者は囚人のジレンマ、共有地の悲劇、予言の自己成就、選択バイアス、事後確率といった概念を盛り込みつつ書かれた、ある若い女性のアイデンティティをめぐる冒険劇。後者は、著者のシカゴ大学におけるゼミの経験を踏まえつつ、イソップ物語「ライオンと鼠」の日米での違いを題材にし、そこに見られる規範文化がどのように異なっているか、著者と学生が議論するという内容。
どちらも、人々の多様性が重要であり、そしていかにしてその多様性を尊重し、開発してゆく社会は可能かという問題意識に支えられている。
後者の「ライオンと鼠」の話では、現代の日本の若者のコンサマトリーなコミュニケーションのあり方と、若者たちの、国際的に見て際立った自尊心の低さとの結びつきが論じられていた。ルース・ベネディクトや作田啓一の「恥の文化」の議論、中根千恵の「タテ社会の人間関係」、ゴッフマンの「ドラマトゥルギー」など社会科学の概念と関連させて、現代日本の「空気が読めない」という言葉に典型的に現れている多様性を否定する傾向に対して、深い洞察が加えられていて読み応えがあった。
著者のASRやAJSの論文とは、全然違った面白さがあった。才能のある人は何でもできるということか。
社会科学の入門書としても非常よい本。多くの人に読まれるべきだと思う。