橘木俊詔『家計からみる日本経済』

著者の基本的なスタンスとしては、これまでの経済成長市場主義を見直し、経済成長率がゼロでも人々がゆとりある生活を送れるよう、分配の問題を重視しようというもの。
そのために、家計を中心に政府と企業の役割がこれまで担っていた役割、およびそれを立ち行かなくさせている社会の変化、新たなリスクの問題が検討されている。


第3章の物価の話が特に勉強になった。日本の物価水準は先進国の中でも高いということ(ただし、本書がデータとして示している1999年までの話。その後は分からない)、また消費者物価と卸売物価は区別すべきことなど。


疑問に思ったのは世代間の年金給付水準の話。しばしば指摘されるように、年金の給付と拠出の差を推計すると、現在の引退世代ではプラスになり、若年世代ではマイナスになる。これが年金における世代間の不公平だという話がある。

著者はこれについて、世代間の公平・不公平を論じる時は、経済成長の果実をもっと評価の対象にする必要があるという。すなわち、今の引退世代が現役であった頃は生活の水準が今よりも低かったが、今の現役世代はすでに高い生活水準を得ているため、多少の年金の減額はあってもやむを得ない。生活水準の向上も評価に入れなければならないということだ。


しかし、ある生活水準に対する満足できるかどうかということまで考えれば、それはその時代のその社会における状況から受ける影響が大きいわけだから、かつての平均と比べることにどれほど意味があるのかは分からない。
現在の引退世代が現役だった頃は生活水準が低かったといっても、今のような高い生活水準という選択肢がそもそもなかったわけだから、そこまで不幸だったとは思えない。


ただ、一方で年金が基本的に賦課方式で運営されていることから考えれば、世代間の不公平を議論しすぎるのも悪いところがあると思う。
ということで、損得の議論が起きないよう、基礎年金は完全に税方式一本で運営すべき(そして現在の二階部分は民間で)という著者の考えには賛成。