ジョン・ロック『市民政府論』

市民政府論 (1968年) (岩波文庫)

市民政府論 (1968年) (岩波文庫)

経験主義の哲学者、啓蒙主義の思想家。


■君権神授説の主張を当時、これだけ堂々とできたのか疑問に思いながら読んだが、解説によるとむしろ名誉革命後のウィリアム3世の治世を正当化するために書かれたものらしい。

■生まれながらにして人々が自由かつ平等だということ、政府の目的およびそれを必要に応じて改変する権利は、アメリカの独立宣言に大きな影響を与えている。

■自然状態を闘争状態と見なさない点は、ホッブズとは異なっている。また、一度契約によって政治体が発生したならば、後は多数者の意志によって動かさなければならないという点は、ルソーの一般意思の考えと異なっていると思われる。



自然状態における自由および平等。

 政治権力を正しく理解し、またその起源を尋ねるためには、われわれは、すべての人間が天然自然にはどういう状態に置かれているのかを考察しなければならない。そうしてそれは完全に自由な状態であって、そこでは自然法の範囲内で、自らの適当と信ずるところにしたがって、自分の行動を規律し、その財産と一身とを処置することができ、他人の許可も、他人の意志に依存することもいらないのである。
 それはまた、平等の状態でもある。そこでは、一切の権力とは相互的であり、何人も他人より以上のものはもたない。
[10]


労働による所有権の発生。

彼の身体の労働、彼の手の働きは、まさしく彼のものであるといってよい。そこで彼が自然が備えそこにそれを残しておいたその状態から取り出すものはなんでも、彼が自分の労働を混えたのであり、そうして彼自身のものである何物かをそれに附加えたのであって、このようにしてそれは彼の所有となるのである。それは彼によって自然がそれを置いた共有の状態から取り出されたから、彼のこの労働によって、他の人々の共有の権利を排斥するなにものかがそれに附加されたのである。
[33]

契約によって依然として共有地のままになっているものがあるが、そこで人が共有のものの一部をとり、それを自然の与えた状態から取去ると、そこに所有権が生まれる。
[34]


契約による協同体・政府の発生、自然状態からの移行。

人が自分の自然の自由を棄て市民的社会の覊絆のもとにおかれるようになる唯一の道は、他の人と結んで協同体を作ることに同意することによってである。
(中略)
もし幾人かの人々が一つの協同体あるいは政府を作るのに同意したとすれば、これによって彼らは直ちに一体をなして一箇の政治体を結成するのであり、そこでは多数を占めた者が決議をきめ、他の者を拘束する権利をもつのである。
[100]


政府をつくる目的は所有の維持にあるということ。

人々が国家として結合し、政府のもとに服する大きなまた主たる目的は、その所有の維持にある。このためには、自然状態にあっては、多くのことが欠けているのである。
[128]


人民が政府を改変する権利を持つこと。

立法者が、人民の所有を奪いとり、破壊しようとする場合、あるいは恣意的な権力のもとに、彼らを奴隷におとし入れようとする場合には、立法者は、人民に対して戦争状態に身をおくことになり、人民は、かくて、これ以上服従する義務を免れ、神が人間のを一切の実力暴力に対して身を守るため与えられたあの共通のかくれ場所にのがれてよいことになる。であるから、もし立法府が、社会のこの基本的原則を守るならば、そうして野心なり、恐怖なり、愚鈍なり、もしくは腐敗によって、人民の生命、自由および財産に対する絶対権力を、自分の手に握ろうとし、または誰かほかの者の手に与えようとするならば、この信任違反によって、彼らは、人民が、それと全く正反対の目的のために彼らの手中に与えた権力を没収され、それは人民の手に戻るようになる。人民は、その本来の自由を回復し、(自分たちの適当と思う)新しい立法府を設置することによって、彼らが社会を作った目的である自分自身の安全と保障の備えをするのである。
[222]