ジョナサン・スウィフト『ガリヴァー旅行記』

ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)

ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)

第一篇 リリパット国渡航記
第二篇 ブロブディンナグ国渡航記
第三篇 ラピュータ、バルニバービ、ラグナグ、グラブダブドリップおよび日本への渡航記
第四篇 フウイヌム国渡航記
ガリヴァー船長より従兄シンプソンへと宛てた書簡
出版社より読者へ


小人の国リリパット、巨人の国ブロブディンナグ、空に浮かぶ国ラピュータ、などなど。

圧巻であり、おそらく子ども向けの物語に出てこないのは、第四篇のフウイヌム国への渡航記。馬(フウイヌム)が国を統治し、人に似た醜悪な生物「ヤフー」が家畜として飼われているという国。
当初ガリヴァーは、自分はヤフーとは違い理性を持った存在なのだとフウイヌムたちに示そうとする。しかし、フウイヌムたちの誠実な姿に感銘し、それに比べたら人間など所詮はヤフーと同類、いや理性を悪事に用いているだけいっそう劣悪な存在なのだと思うように至る。
そしてガリヴァーは、人間もといヤフーが統治するような元の生活に戻るよりは、一生をフウイヌム国で過ごそうと決心する。しかし期せずしてイギリスに戻ることになってしまう。帰国後は、妻や友人たちさえをも嫌悪するようになり、フウイヌム国への思いを馳せるために買った二頭の馬を最も愛するようになった。友人に勧められて、気が進まないながらも出版した旅行記が本書、という体裁になっている。

大冒険家として名を挙げました、めでたしめでたしという話かと思いきや、すっかり世捨て人のようになってしまうというのが面白い。しかも、帰国後もイギリスの植民地政策は支持するなど、自らの母国の体制は支持しているというのも含蓄深い。

ただ、検閲を恐れて表現を弱めたというわけではないらしく、当時のイギリス王政やヨーロッパへの数々の皮肉に溢れている。
スペイン継承戦争をはじめとする人間が行う戦争を、フウイヌムの口をして「醜態」と言わしめたり、ジョージ1世を「一種の乞食みたいな君主」と書いていたりする。