JILPT報告書「アメリカの新しい労働組織とそのネットワーク」

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2012/0144.htm

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ニューディール型労使関係システムとは、およそつぎのような社会システムと考えておこう。中核にあるのは、労働組合の強固な組織が存在すること、労働組合と使用者との団体交渉によって労働者の労働条件・生活条件が決定されること、そして、それらを政府が奨励することである。政府による奨励とは、全国労働関係法(NLRA)の手続きをへると、使用者に労働組合との団体交渉応諾義務が課せられ、労使間の団体交渉が促進されることである。この団体交渉によって、労働組合の要求が相当程度に使用者によって受け入れられるならば、労働組合は労働者の賃金など労働条件の改善を達成できるとともに、その生活条件の改善もまた達成できる。[1]

しかし現在、このシステムは崩壊しつつある、ないしは崩壊した。
崩壊の大きな理由の一つは、他国企業との競争の激化によって、アメリカ企業の競争優位が失われたことであろう。あるいは、これと関連することであるが、アメリカの産業構造が製造業からサービス業などにシフトし、労働組合が強固な組織をもっていた製造業の比重が相対的に低下したことであろう。また、全国労働関係法(NLRA)の規定の狭さも指摘できるであろう。もっとも、これらの理由については別のきちんとした議論が必要なところであって、ここでは、これらの理由を考察しない。
重要なことは、ニューディール型労使関係システムが崩壊しつつある、ないしは崩壊したという事実である。そして、その崩壊をもっとも明確に示す指標の一つは、アメリカにおける労働組合組織率の低下である。すなわち 1983 年に労働組合組織率は全国で 20.1 パーセントであったのものが、その後も低下し続けて、2010 年に全国で 11.9 パーセントに低下した。民間企業では 6.9 パーセントに低下した(BLS(2001))。この低い組織率では、もし仮に、労働組合の要求が相当程度に使用者に受け入れられ、労働組合員の労働条件と生活条件の改善が達成されたとしても、国内の消費需要の増加は限定的であり、経済成長も限定的である。[2]

我々の調査が先行研究としてもっとも重視したのは、Osterman, et al.(2001)(邦訳(2004))である。Osterman, et al.(2001)は、ニューディール型労使関係システムのもとで労働組合が担っていた機能を代替するものとして、「次世代組合(Next Generation Unions)」(第 4 章)と「新しい組織」(第 5 章)、そして「政府の役割の再配置」(第 6 章)による枠組みの再構築を提案している。その概要は次のとおりである。
「次世代組合」とは、既存の労働組合であろうと新しい労働者組織であろうと、既存の組合員以外に会員の範囲を拡大することで、労使関係の社会への影響力を回復するものである。個人加盟の会員に企業を離れても医療保険や年金、職業訓練などのサービスを提供することも期待される。そのため、労働法の改正や経営文化の変更が必要だとする。
「新しい組織」は、既存の労働組合以外を想定し、次の三つに分類している。一つ目は個人とコミュニティ双方を代表する仕事と賃金に関する権利擁護組織であり、二つ目が職業訓練と生涯学習を行うグループ、三つ目が雇用の流動化に対応した職業紹介機関である。具体的には、労働者の権利擁護グループおよび組織、移民グループ、インダストリアル・エリア・ファンデーション(IAF;Industrial Areas Foundation)モデル、リビング・ウェイジ連合、ワーク・ファミリー政策と実施の推進グループ、教育・職業訓練・生涯学習の組織、職業紹介組織をあげている。[3-4]