DiPrete et al.(2006)


DiPrete Thomas A. et al., 2006, "Work and Pay in Flexible and Regulated Labor Markets: A Generalized Perspective on Institutional Evolution and Inequality Trends in Europe and the U.S.," Research in Stratification and Mobility, 24(3): 311-32.

労働経済学の”unified theory”の批判と、それに代わる説明。


○著者たちによると、unified theoryは次の命題にまとめれる。(1)主要先進国における主要な制度的特徴は1970年代以降、比較的安定している。(2)マクロ経済的な文脈は1970年代以降大きく変化しており、主要先進国は共通の「マクロ経済ショック」(低い生産性の伸び、インフレとディスインフレの期間、国際貿易の増加、技術変化による低スキル労働者への需要の低下)を経験した。(3)ある国における労働市場のアウトカムは、その国の制度的特徴と、共通のグローバルな「マクロ経済ショック」の相互作用である。


○unified theoryは、「制約の中での選択」("choice-within-constraints")という説明枠組みを採用しているという点において、「制度的」である。


○unified theoryは、柔軟な(flexible)労働契約が可能になり、雇用主がレイオフを行うコストが低下したという、1980年代以降ヨーロッパで起きた変化を捉えていない。また、unified theoryは雇用関係の分布の構造の変化に注意を払っていない。階級に関する社会学理論は、長くにわたって賃金は雇用関係を特徴付けるにあたって十分ではないことを議論してきた。著者たちによれば、雇用契約の分布と、雇用の安定性・キャリアの発達可能性に注目することは、ヨーロッパにおける不平等のダイナミックな構造を理解する上で不可欠である。


○著者たちの中心的な仮説は、ヨーロッパの労働市場は低スキルの労働者を柔軟な仕事に割り当てることによってskill-biased technological changeを緩和した、というものである。ヨーロッパではスキルに対する雇用の安定性へのリターンが高まり、アメリカではスキルに対する賃金のリターンが高まった。これを著者たちは"generalized inequality"と呼んでいる。


○概して、アメリカの労働者はフランスの労働者よりも職を失いやすいが、新しい職もより見つけやすい。


○フランスでは不安定な仕事は若年者に偏っているのに対し、アメリカではより年齢に広く分布している。フランスでは不安定な仕事は期間の定めのある(contingent)ものであるのが多いのに対し、アメリカでは期間の定めのないlow-tenureな仕事が多い。


○雇用の不安定性の伸びは、アメリカよりもフランスの方が大きいと言える。


労働市場の比較研究の多くは、アメリカに対してヨーロッパの方が不平等に対して不寛容だということを前提にしている。しかし、この見方は単純である。正しい対比は、効率的なアメリカと平等なヨーロッパではなく、雇用主が個人の雇用関係を築くことが自由なアメリカと、労働市場への参加よりも補償(compensation)によって平等を達成しようとしているヨーロッパというものである。


○HallとSoskiceが述べるようにヨーロッパの中でも資本主義は多様であるので単純な比較はできないが、フランスとある程度に同様の傾向が他のヨーロッパの国でも見られると言える。