宮川雅巳『統計的因果推論――回帰分析の新しい枠組み』4-6章

 Pearl本よりも,明らかにこちらを先に読むべきでした.すごくわかりやすく書かれています(しかし扱っている内容は高度なので難しい).バックドア基準はそれが正しいという仮定をもちろん置くのですが,「強い意味での無視可能性」のチェック条件を一般的に与えることと,また必ずしもすべての交絡因子を統制する必要がないことがわかるということは,非常に興味深いです.

 

【定義4.3】有向分離

 非巡回的有向グラフ G=(V,E)を考える.2つの頂点 \alpha \betaを結ぶすべての道のそれぞれについて, {\alpha,\beta}と排反な頂点集合 Sが次の条件のいずれかを満たすとき, S \alpha \beta有向分離(d-separate)するという.

 1)  \alpha \betaを結ぶ道上の合流点で,その合流点とその子孫が Sに含まれないものがある.

 2)  \alpha \betaを結ぶ道上の非合流点で, Sに含まれるものがある.

なお, \alpha \betaを結ぶ道がないときは,空集合が \alpha \betaを有向分離するという.

 

 【定義5.3】バックドア基準

 因果ダイアグラム Gにおいて, Xから Yへ有向道があるとする.このとき,次の2つの条件を満たす頂点集合 S (X,Y)についてバックドア基準を満たすという.

 1)  Xから Sの任意の要素へ有向道がない.

 2) 因果ダイアグラム Gより Xから出る矢線を除いたグラフにおいて, S X Yを有向分離する.

 

 バックドア基準を満たす頂点集合は必ず存在する Xの親 pa(X)や非子孫 nd(X)はバックドア基準を満たす自明な頂点集合である.

 

【定理6.2】偏回帰係数と総合効果の一致条件

 非巡回的有向グラフであるパスダイアグラム Gにおいて, Xから Yへの有向道があるとする. Gにおいて頂点集合 S (X,Y)に対してバックドア基準を満たすならば, Yを目的変数, Xと集合 Sに含まれるすべての変数を説明変数にした回帰モデルでの Xの偏回帰係数 \beta_{yx\cdot S}は, Xから Yへの総合効果と等しい.

 

 この定理の内容を世に知らしめることが,まさに本書を執筆する最大のモチベーションであった.実際,第1章で導入したBoxの指摘「回帰分析のabuse」に対する今日的回答はこの定理6.2である.つまり,回帰分析のabuseを避ける最も有向な手段はパスダイアグラムの作成とバックドア基準の適用にある.