Steinberg and Figart. 1999. "Emotional Labor Since The Managed Heart".


Steinberg, R. J., & Figart, D. M. (1999). Emotional labor since the managed heart. The Annals of the American Academy of Political and Social Science, 561(1), 8-26.

 Arlie Hochschildの1983年の著作、The Managed Heartが出版されて以降の、感情労働(emotional labor)についての研究をレビューした論文です。
 Hochschildは、例えば、壁紙工場の労働者は、壁紙を好きか嫌いかという問題が壁紙を生産する工程の一部にならないのに対して、客室乗務員の場合は「自分の仕事を愛している」ように見えることが仕事の一部になるとしています。このように、観察可能な身振りや表情を通して感情の管理を要求されるような労働のあり方を感情労働と定義しました。本論文の著者たちによれば、Hochschildは当初、感情労働を観察可能な表情や身体的なしぐさとして行われると定義しましたが、後の研究者は話された言葉や声の調子、「様々な振る舞いによって表現される努力」にまで拡張したとのことです。
 また、本論文ではHochschild以降の感情労働に関する研究の2つの領域として、(1)サービスセクターにおける労働者の定性的研究、(2)家庭における感情労働、種類の異なる様々な仕事、養育行動との連関と、それらが個人の満足度、生産性、報酬に与える結果についての定量的研究の2つに分類しています。その結果明らかになっていることとして、次のようなことを挙げています。
 第一に、感情労働が労働者の健康に与える影響、特に燃え尽きや倦怠感などの負の影響について検証されましたが、実際には研究者の仮説よりも結果は複雑であり、労働者の健康に負の影響があるという一様な結果は得られなかったとのことです。第二に、感情労働と組織の生産性についての研究が行われたとのことです。これらの研究は、組織や家庭における、報酬が支払われることのない、しかしながら行うことを要求される感情労働にも焦点を当てたとのことです。第三に、感情労働に対する補償が行われているかどうかの検証が行われたとのことです。これらの研究では、仕事の円滑な遂行に必要な感情労働と、必要ではないものの監督者から行うことを要求される感情労働の双方に焦点が当てた結果、どちらの場合にも補償は行われていなかったことが明らかになったとのことです。
 また、Hochschildは感情労働に伴う倫理的な問題についても喚起したものの、その後の研究でもこの問題に対して深い洞察は行えていないとのことです。例えば感情労働への補償について、看護師にはなされるべきかもしれないが、不安定な立場にある管理職についてはどうか。また、女性の弁護士補助員はそのすべての感情労働に対して補償されるべきなのか。あるいは、家庭において行われる感情労働についてはどうかなど、様々に複雑な問題が含まれることが指摘されています。