河北新報社『河北新報のいちばん長い日――震災下の地元紙』

 

河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙

河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙

 

 

 いまさらながら読んでみました。本当は、震災から5年にあわせて3月上旬には買っていたのですが、だらだらとしていたら、もうこんな時期になってしまいました(その間には熊本でも地震が起きてしまいました)。

 何もしないと専門書以外の本を読む時間は減ってゆくばかりなので、視野を狭くしないためには、もう少し意識的に取り組まないといけないですね。最近は、電車の中では直接は研究に関係のない勉強をなるべくするように努めています。

 

 本書は、東日本大震災が起きた日から、だいたい2ヶ月程度の間に、河北新報の社員がどのように震災に向き合いながら紙面作成を行ったのかが詳細に記録されています。

 自らも被災者でありながらも、東北に根付いてきた新聞として、報道を通じて貢献をしたいという社員の思いが、ひしひしと伝えられてきます。もともと、明治維新の際に、「白河以北一山百文」と蔑まれたことを見返したいという思いで、あえて「河北」を紙名に掲げたということもあり、今でも「東北振興」が社是になっています(東北と言いつつも、ほとんど宮城県内でしか読まれてはいないのですが)。

 特に、震災から数日の間の記録には、壮絶な葛藤がみられます。たとえば、ヘリコプターの真下では助けを求めている被災者がいるにもかかわらず、撮影以外にすることはできないという無力感であったり、情報に混乱があり被爆のリスクが分からない中で、地元の人々を見捨てて、福島原発から避難してもよいのかという迷いであったりです。

 河北新報社の社員だけではなく、販売店や輸送業者、提携している新聞社の助けを得て、休まずに新聞発行ができたことにも注意が向けられており、バランスのとれた構成になっていると思いました。

 一方で、全国紙に先駆けてスクープを取材したいとか、社内で炊き出しをするよりも現場で取材をしたいなど、こうした非日常においても、会社の利害や競争はなくならないのだということも、包み隠さずに描かれています。

 最後の方で書かれていますが、全国紙はやはり「熱しやすく冷めやすい」ので、 地元紙が継続して報道に取り組むことの意義は大きいし、また本書のような記録が後々に残されることも大事だと思います。