『父親たちの星条旗』


  2006年公開の、クリント・イーストウッド監督による映画です。太平洋戦争において多くの死傷者を出した、硫黄島の戦いをモデルにした映画であり、アメリカ側の視点から描かれたものです。日本側の視点から描かれた姉妹作である、『硫黄島からの手紙』も、4年ほど前に観ました。クリント・イーストウッドの映画からは、並外れた衝撃を受けるということは正直なところないのですが、常に安定して観られる面白さがありますね。

 クリント・イーストウッドの映画は、アメリカの保守的な価値を体現しているところが結構あると思うのですが、同時にそうした価値を揺さぶるようなテーマも描かれます。たとえば、『ミリオンダラー・ベイビー』における安楽死であったり、『ミスティック・リバー』における小児性愛であったり、『グラン・トリノ』における人種的マイノリティとの関わりであったりなどです。

 本作で言えば、「アメリカを勝利に導いた英雄」という価値が揺さぶられることになります。一枚の写真が戦争への士気を大いに高めたにもかかわらず、写真の中の当事者たちはごく普通の兵士であり、「英雄」というシンボルだけが肥大してゆきます。本来は、戦死した同僚たちこそが称えられるべきだと、彼らは自問します。

 マックス・ヴェーバーによれば、カリスマ的な権威は指導者の特徴よりも、信奉者の集団の性質に依存します。本作における「英雄」も、当の兵士たちの資質によるものではなく、そうした価値求める周囲の人々が定義することにより生み出されたものと捉えることができそうです。