村上春樹『やがて哀しき外国語』

 

やがて哀しき外国語 (講談社文庫)

やがて哀しき外国語 (講談社文庫)

 

 

 著者が90年代にプリンストン大学に招かれてアメリカ滞在していた頃の経験を基にして書かれたエッセイです。

 村上春樹の小説を読んでいると、日本の土地や人物に関わる固有名詞が出て来るときでさえ、どこか日本ではないような感覚をしばしば受けることがあります。しかし、本書はノンフィクションということで、日本とアメリカ、日本人とアメリカ人の考え方の違いなどの固有性や土着性を著者も当然意識して書いているでしょうし、読者としてもそれらを感じざるをえません。

 90年代のアメリカということで今よりは20年以上も昔であり、また当時の時代状況を反映した記述も多々あると思います(ちょうど湾岸戦争が勃発した頃で、「その当時のアメリカの愛国的かつマッチョな雰囲気はあまり心楽しいものではなかった」など)。しかし、それを超えた普遍的で鋭い考察が随所にあり、唸らされました。

 

 以下、目を引かれた雑多な箇所

  • プリンストン大学の権威主義や独特の文化へのおどろき(ある教授にバド・ドライが好きで飲んでいると言ったら、首を振ってひどく悲しい顔をされた)
  • アメリカでご近所だった経済学の神取先生
  • 妻のことを自己紹介する上で、相手に「期待される回答像」にあわせることの大変さ
  • 日本から留学・研修に来ているエリート官僚への痛烈な批判