Heisig and Solga (2017) "How Returns to Skills Depend on Formal Qualifications: Evidence from PIAAC"

Heisig, Jan Paul and Heike Solga. 2017. "How Returns to Skills Depend on Formal Qualifications: Evidence from PIAAC." OECD Education Working Papers, No. 163, OECD Publishing.

 

 国際成人力調査(PIAAC)を用いて、公的な教育資格(学歴)、認知的スキルと労働市場におけるリターンの関係が、国によってどのように異なるのかを検証した論文です。

 

  • 低学歴の人々は平均して認知的スキルが低く、この事実が部分的に労働市場における不利さを説明する。しかし、学歴と認知的スキルの関係、およびこれらがいかに労働市場におけるアウトカムと結びつくかは、国によって相当のばらつきがある。
  • 低学歴の人々とそうでない人々のスキルの格差が相対的に大きく、かつ低学歴者のスキルの分布が均質的である場合に、学歴は雇用主に対して強い負のシグナルを与えうる。こうした「技能の透明性」(skill transparency)の程度によって、特定の社会では低学歴者が労働市場においてより大きな不利に直面しやすい。
  • PIAACをデータとして用いて、低学歴者を・中学歴者をそれぞれISCEDのレベル0から2、レベル3から4として定義する。ISCEDレベル5以上の高学歴者は分析から除外する(低学歴者と労働市場において競合することが少ないため)。認知的スキルの指標としては、計算能力テストの得点を用いる。これは他のテスト得点よりも労働市場におけるアウトカムの予測性が高いことが示されているためである。労働市場におけるアウトカムの指標としては、現職または最後職のISEI得点を用いる。分析は16歳から54歳で、かつ調査時点でフルタイムの就学をしていない人々に限定する。
  • 低学歴者と中学歴者の認知的スキルの格差の大きさは、教育システムの分化度合い(トラッキングの強さ)と正に相関しており、(後期)中等教育における職業教育の拡がりと負に相関している。
  • 低学歴者と中学歴者の認知的スキルの平均的格差が大きく、かつそれぞれの学歴グループ内のスコアの分散が小さい(均質性が高い)国ほど、学歴によるリターンの格差が大きい。

 

 日本も分析に含まれており、低学歴者と中学歴者の平均的なスキル格差は小さいものの、それぞれのグループの均質性はかなり大きい(それぞれのグループ内の分散が小さい)という結果になっています。

 マルチレベル分析も行われていますが、ワーキングペーパーということもあってか、仮説を十分に検証するような分析結果までは出されていません。低学歴者のサンプルサイズが小さいことがネックになっているとのことです。特に日本の場合、ISCEDレベル2以下ということは中卒に対応するので、交互作用を入れた分析だと、推定値がかなり不安定になっていると思われます。