Joli Jensen (2017) Write No Matter What: Advice for Academics

 

Write No Matter What: Advice for Academics (Chicago Guides to Writing, Editing, and Publishing)

Write No Matter What: Advice for Academics (Chicago Guides to Writing, Editing, and Publishing)

 

 

 先日読んだSilvia(2007)のAmazon Kindleページでおすすめに出てきたので、これも買いました。Silvia(2007)にくらべると、より細かいテクニックの紹介や、執筆に不安・停滞を感じる際の状況の分析が充実しているという印象でした。たとえばSilvia(2007)では、「執筆が進まないのを環境のせいにするのは甘えである。トイレだろうがどこだろうが執筆はできる」というように様々な言い訳を切り捨てる傾向にありましたが、本書では執筆環境の重要性が強調されています。Steven Kingの言葉を引用して、「すべての書き手にとって必要なのは『自ら進んで閉じられるドア』(a door you are willing to shut)である」と述べられています。

 著者自身、博士論文の執筆にはかなり苦労されたようで、そうしたエピソードから滲み出ているものがありますし、また自身の大学で長年組織している論文執筆のワークショップにおける経験に裏打ちされて、説得力が増している部分もあります。

 本書のアドバイスで特に目を引いたのは、"ventilation file"なるものの作成でしょうか。Silvia(2007)でも挙げられているプロジェクト・タスクのリストとは別に作ることが推奨されているものです。日本語に訳すならば、「感情の表出ファイル」などになるのでしょうか。要は執筆中に感じたあらゆる不安や苛立ちを吐き出すためのファイルとのことです。これを利用することで、執筆を停滞させている誤った考え("writing myth")が何であるのかを明らかにすることを目的としています。本書に挙げられている虚構として、「一生の大作を書き上げないといけないという虚構」(magnum opus myth)や、「敵意を持ったレビュアーの批判にすべて答えられなければいけない虚構」(hostile reader myth)などは自分の経験でも思い当たるところがあります。

 自分でも試しにventilation fileを作ってしばらく実践してみました。感想としては、ネガティヴな感情を吐き出すよりかは、「今の論文には書くほどのことはではないけれど、将来的にこういう分析もできそう」とか、「ランチ食べた後にどのような作業をするか」など、アイディアや備忘録などを書き出すファイルとして役に立つように思いました。研究に対するネガティヴな感情ももちろん湧き上がることはありますが、そういう場合は単にPCから離れて休憩をとった方が自分にはうまく働くという印象です。

 他にも1日の研究時間をどのように配分するか(エネルギーの充実度によって分け、もっとも充実している「A時間」を執筆に当てる)、複数のプロジェクトをどのように並行して進めるか("back burner project"を持つ)なども興味深い章でした。