Bloome, Dyer and Zhou (2018) "Educational Inequality, Educational Expansion, and Intergenerational Income Persistence in the United States"

 

Bloome, Deidre, Shauna Dyer, and Xiang Zhou et al. 2018. "Educational Inequality, Educational Expansion, and Intergenerational Income Persistence in the United States." American Sociological Review 83(6): 1215-53.

 

 データと方法の箇所を中心に。考察も面白いことがいろいろと書かれているのですが、だいぶ長いのでここら辺で。

 

  • 世代間の所得持続性(intergenerational income persistency)に関して、教育は2つの重要な役割を担う
    • (1)「教育の不平等」:高所得の親は高学歴の子どもをより育てやすい
    • (2)「教育のリターン」:高学歴の人々はより高所得になりやすい
  • 近年、アメリカでは教育の不平等、教育のリターンともに増大している
  • こうした変化から、世代間の所得持続性も強まっているという予測が可能なものの、実際のところは安定している
  • この問題を解くためには、もう一つのトレンドとして、教育拡大を考慮する必要がある
  • 教育の拡大によって低所得家庭の子どもがより大学に進学し、大学教育の恩恵を受けることで、世代間の所得持続性は弱まる可能性がある
  • NLSY79とNLSY97の分析によって、教育の不平等と教育への経済的リターンの拡大により、世代間の所得持続性は強まったことを確認する
  • 高等教育の拡大はこの持続性を弱める働きをしているものの、その規模は教育の不平等とリターンの拡大による持続性の強まりに対して、3分の1程度しかない
  • 世代間の所得持続性が安定して推移しているのは、さらにもう一つのトレンドとして、それぞれの学歴内において子どもの将来の所得に対する親の所得の予測力が弱まっているためである
  • この理由として、大人への移行にかかる期間が長くなったこと、仕事の不安定化、所得の不安定さ(volatility)が増したことが考えられる
 
  • 世代間の所得持続性は通常、成人した人々の所得をその親の所得に回帰した際の係数 \betaによって測られる
  • 所得は年齢・測定誤差・家族の人数を考慮して調整されることが多い
  • 伝統的に、所得は対数変換され、 \betaを世代間の所得の弾力性として解釈されてきた
  • より近年では、所得を順位に変換し、それぞれの世代における順位の相関、つまり相対的な持続性として捉えるようになっている
 
  • 分解によるアプローチと、モデルベースのアプローチを採用する
  • 分解アプローチでは、(1)教育拡大、(2)教育の不平等とリターンの拡大、(3)学歴内における親の所得による予測力の影響を分離する
  •  \beta = \sum_{g}\pi_{g}B_{g}

  = \sum_{g}\pi_{g}(B_{g}^{b}+B_{g}^{w})

  =\sum_{g}\pi_{g}(\frac{(\mu_{ga}-\mu_{a})(\mu_{gp}-\mu_{p})}{\sigma_{p}^{2}}+\beta_{g} \frac{\sigma_{gp}^{2}}{\sigma_{p}^{2}})

  •  B_{g}^{b}は学歴間の連関を表すものであり、親と子の所得順位の共分散 (\mu_{ga}-\mu_{a})(\mu_{gp}-\mu_{p})を親の所得順位の分散 \sigma_{p}^{2}で割ったものとして表される
  •  \mu_{ga}-\mu_{a}は教育のリターンの差異、 \mu_{gp}-\mu_{p})は教育の不平等の差異を反映している
     B_{g}^{w}は学歴グループ gの中で、世代間の所得持続性がどの程度あるかを表す
  • NLSY79とNLSY97における係数 \betaの変化を次のように表せる
  •  \beta^{97}-\beta^{79}=\sum_{g}\pi_{g}^{79}(\frac{(\mu_{ga}^{97}-\mu_{a}^{97})(\mu_{gp}^{97}-\mu_{p}^{97})}{\sigma_{p,97}^{2}}-\frac{(\mu_{ga}^{79}-\mu_{a}^{79})(\mu_{gp}^{79}-\mu_{p}^{79})}{\sigma_{p,79}^{2}})

  +\sum_{g}\pi_{g}^{79}(\beta_{g}^{97}\frac{\sigma_{gp,97}^{2}}{\sigma_{p,97}^{2}}-\beta_{g}^{79}\frac{\sigma_{gp,79}^{2}}{\sigma_{p,79}^{2}})

  +\sum_{g}B_{g}^{97}(\pi_{g}^{97}-\pi_{g}^{79})

  • 3つの項はそれぞれ、(1)学歴間の所得格差の上昇、(2)学歴内の世代間所得の予測力の変化、(3)教育拡大による寄与を表す
 
  • 分解アプローチは、教育の不平等の拡大と教育へのリターンの変化の同時的な寄与しか測ることができない
  • さらに分解アプローチは、教育拡大によって学歴内の平均所得は変化しないという仮定を置いている
  • モデルベースのアプローチによってこうした強い仮定を緩和することができる
  • これは2段階に分けられ、第一段階では一般化順序ロジットモデルによって、親の所得順位から子どもの教育達成を予測する
  • 第二段階では、予測された教育達成を用いて、子どもの成人期における所得を予測する
  • こうして得られた所得の予測値を順位に変換する
 
  • データはNLSY79(1974~2014年)とNLSY97(1997~2015年)
  • 調査開始時点のサンプルは、NLSY79が14~22歳、NLSY97が12~18歳
  • 比較可能性のために、NLSY79のサンプルは14~18歳に限定
  • 親の世帯所得は調査開始から最初の5年間、子どもの成人期の世帯所得は27~32歳の平均をとる(1年分しか所得が回答されていない場合には除外)
  • 世帯所得には、EITCとCTCの推定値も追加
  • 性労働や同類婚の重要性を考慮して、世帯の合計所得によって労働供給の同時的な意思決定を捉える
  • 所得は個人消費支出指数(personal consumption expenditures index)によって平準化し、家族人数の二乗根によって調整する
  • 学歴は6グループ(高卒未満、高卒、大学中退、準学士、学士、修士以上)に分類
  • 男女で同様の結果であるため、主な分析では男女を統合
 
  • 教育拡大は、世代間の所得持続性の低下に貢献している
  • しかし、教育の不平等・教育へのリターンの増大による所得持続性の増加規模に対して、教育拡大による平等化への貢献は3分の1程度でしかない
  • 学歴内において、親の所得による子どもの成人所得の予測力が低下しているため、世代間の所得持続性はコーホート間で安定している
  • パス解析の伝統に基づく用語を用いれば、親の所得による子どもの教育を通じた「間接効果」は増大しているものの、子どもの教育を介さない「直接効果」は弱まっているのである