渡辺靖(2019)『リバタリアニズム――アメリカを揺るがす自由至上主義』
リバタリアニズム系の団体やシンクタンクの現地調査などに基づいており、著者の足跡を辿るような構成になっているのが読み応えがありました。
CNNなどを観ていると、トランプ大統領のニュースばかり流れているので、「トランプかそうでないか」という分断にばかり注目してしまいがちなのですが、本書を通じて単純な二項図式では捉えられない現代アメリカの複雑さを知ることができました。
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リバタリアニズムは、自由市場・最小国家・社会的寛容という価値観を共通に持っているものの、再分配・外交・差別是正・移民受け入れなどの個別イシューにおける政府の役割に関しては内部で多くの意見の違いが見られる。たとえば、ミルトン・フリードマンは「負の所得税」という政府からの給付金を主張したし、フリードリヒ・ハイエクも限定的な社会保障機能を容認した。
- ヨーロッパ流の「保守主義」は歴史的に貴族や大地主などのエリートを中心とする身分制度に基づいており、それに対して占領政策を経た戦後の日本ではそうした厳然たるエリートの影響力は稀薄である。そのため、「保守」といっても愛国心に訴える以外の説得力が乏しく、「リベラル」も「反・保守」である以上の訴求力に欠いている。