渡辺靖(2019)『リバタリアニズム――アメリカを揺るがす自由至上主義』

 

 

 リバタリアニズム系の団体やシンクタンクの現地調査などに基づいており、著者の足跡を辿るような構成になっているのが読み応えがありました。

 CNNなどを観ていると、トランプ大統領のニュースばかり流れているので、「トランプかそうでないか」という分断にばかり注目してしまいがちなのですが、本書を通じて単純な二項図式では捉えられない現代アメリカの複雑さを知ることができました。

 

  • アメリカではミレニアル世代(1981~1996年生まれ)を中心に、共和党民主党双方への失望から、リバタリアニズムへの支持が増えている。
  • 「弱者切り捨て」、「裕福な白人男性によるイデオロギー」というイメージを持たれることもあるものの、そういった理解はリバタリアニズムの本質を捉え間違えかねない。
  • アメリカにおけるリバタリアン党を創設したデヴィッド・ノーランが作成した分類によると、「個人の自由」と「経済的自由」の重視度合いによってリバタリアニズムを位置づけることができる。すなわち、(1)リバタリアニズム(個人の自由:重視、経済的自由:重視)、(2)保守(個人の自由:軽視、経済的自由:重視)、(3)リベラル(個人の自由:重視、経済的自由:軽視)、(4)権威主義(個人の自由:軽視、経済的自由:軽視)と分けられる。
  • リバタリアニズムは、自由市場・最小国家・社会的寛容という価値観を共通に持っているものの、再分配・外交・差別是正・移民受け入れなどの個別イシューにおける政府の役割に関しては内部で多くの意見の違いが見られる。たとえば、ミルトン・フリードマンは「負の所得税」という政府からの給付金を主張したし、フリードリヒ・ハイエクも限定的な社会保障機能を容認した。
  • 集合的なアイデンティティイデオロギー自体を批判の対象にする側面があり、そのため「リバタリアニズム」という名称で括られることを嫌がる人々もいる。
  • ヨーロッパ流の「保守主義」は歴史的に貴族や大地主などのエリートを中心とする身分制度に基づいており、それに対して占領政策を経た戦後の日本ではそうした厳然たるエリートの影響力は稀薄である。そのため、「保守」といっても愛国心に訴える以外の説得力が乏しく、「リベラル」も「反・保守」である以上の訴求力に欠いている。