Brinton and Oh(2019)「子どもか、仕事か、それとも両方か? 東アジアにおける高学歴女性の就業と出産」

 

Brinton, Mary C. and Euncil Oh. 2019. "Babies, Work, or Both? Highly Educated Women’s Employment and Fertility in East Asia." American Journal of Sociology 125(1): 105-40.

 

  • この論文では、日本と韓国という2つの東アジアの事例において、なぜ高学歴既婚女性の継続就業と子育てが非常に両立困難であり続けているのかを問う
  • 日本と韓国はOECD諸国の中でM字型就業カーブを維持している唯一の国々である
  • 既婚女性の就業に関する定性的分析のほとんどでは、女性自身のナラティヴにのみ焦点をあてているものの、この研究では既婚男性および未婚の男女の視点を引き出す
  • 日本ではM字型就業カーブがある程度はフラットになったものの、韓国では維持されている;またM字型就業カーブが緩和しているのは、未婚女性の継続就業と既婚女性の非正規での再就業によるところが多く、第一子出産後の離職率は過去30年で大きく変化していない
  • 日本では1970年代の後半に出生率は人口置換率2.1を割り、観光では1980年代の半ばに割っている;韓国の2017年における出生率の1.07は、1.3未満で定義される「極低出生国」("lowest-low" fertility country)の典型例である
  • 日本・韓国のどちらにおいても、結婚後数年の間にカップルは子どもを持ち、子どもを持たないケースは少ない;また婚外子も少ないため、両国での出生率の低下は、(1)30代後半における未婚率の上昇、(2)既婚カップルが第二子以降を持つ確率の低下という2つの要因に主にわけられる
  • アメリカの研究では、家事のほとんどを妻が行うカップル(「伝統」モデル)と、家事分担が相対的に平等であるカップルという両極において第二子以降を生む確率が高く、その中間では低いというU字型の関係が明らかにされている
  • 長時間労働などの労働市場の構造や組織の規範が、家事分業に影響し、結果的に出生に影響するのかどうかについての研究は少ない;つまり、社会人口学の研究は、労働市場の条件を出生の規定要因の一つであり、家事分業を媒介して効果を持つものとは考慮してこなかったのである;
  • 近年の例外の一つは、Nagase and Brinton(2017)であり、日本全国の代表データを用いて、男性大卒の大企業労働者(5000人以上)では、他の男性の学歴・企業規模グループの中でもっとも家事労働の寄与率が低い(13%)ことを明らかにしている;これは第二子を持つことを妨げているものの、あてはまるのは共稼ぎカップルの場合のみであった
  • 日本・韓国ともに公的セクターの規模は小さく、それゆえ民間セクターの労働市場条件が男女の生活において重要性を持つ
  • 両国ともに特に大企業の正社員では年功賃金システムが発達しており、企業間移動にともなうペナルティは大きい
  • 職場の規範として、長時間労働は雇用主への忠誠の証明と慣習的にみなされてきた;実際のところ、日本・韓国はOECd諸国の中で週50時間以上働く労働者の比率がもっとも高い(20%以上)
  • OECD24ヶ国を対象とした性別役割の価値観に関する近年の分析では、他国にくらべて日本と韓国では、女性の生活に関する「労働支持の保守」(prowork conservative)モデルに分類される人々の比率が高い;このイデオロギーは、女性の主要な役割は家庭にあり、補完的に労働市場での役割があるとみなすものである
  • 仕事と家庭に関する政策と、公的保育の利用可能性はアメリカの基準からすると充実しているものの、これらは男性稼ぎ主―女性ケア労働のイデオロギーによって相殺されている
  • データは、「出生とジェンダー公正に関する比較プロジェクト」を利用する;24~35歳の現地で生まれた、高等教育を受け、都市に居住する日本・韓国の男女に対して、定性的インタビューを行った
  • 日本のサンプルは東京・大阪、韓国のサンプルはソウル・釜山から選ばれた;韓国のサンプルサイズは65、日本のサンプルサイズは50である
  • サンプルは、(1)未婚(非同棲)、(2)既婚・子なし、(3)既婚・子ども1人という属性が、3分の1ずつになるように層化された
  • サンプルに含まれる人々は独立したサンプル、つまりどのグループにおける個人も互いにカップルを形成しているわけではない
  • 何らかの高等教育を修了した人々のみをサンプルに含めた;学歴の異なる人々を比較することはできないものの、高学歴女性がもっとも高い機会費用に直面するというMcDonald(2013)の指摘と一致するようなデザインとなっている
  • スノーボールサンプリングによって対象者は選ばれたものの、ある対象者から紹介してもらう人々を2人までに抑えることで、閉じたネットワークになってしまうことを防いだ
  • サンプルに選ばれた人々を事後的にクラスター分析にかけ、これらの人々が母集団の同一の人口学的グループにくらべて、異なる出生の意図や異なるジェンダー意識を持っていなことを確認した
  • インタビューの書き起こしは、Dedooseというソフトウェアによって構造的にコード化された
  • 分析の結果、既婚女性の典型的な平日のスケジュール、自分自身・配偶者の現在の就業状況、理想的な男性像、子どもをもつことを将来の就業に関して、3つの主要なテーマが現れた:(1)男性の長時間労働に対する暗黙の承認と、それによって帰結する非常に偏った家事分業、(2)女性による自らのフルタイム就業と第二子以降を持つことについてトレードオフの表明、(3)社会に対するにつながりを保つ手段として就業をみなすこと(日本の女性により顕著)と、自らのアイデンティティを表現する手段として就業をみなすこと(韓国の女性により顕著)
  • 既婚カップルは2つのグループにわかれる
    • (1)大半である労働市場への順応者(adjusters):妻はフルタイム就業を少なくとも一定期間はあきらめるグループ
    • (2)少数である労働市場への挑戦者(challengers):妻はフルタイム就業を継続することを意図しているグループ
    • 後者のグループでは、第二子を持てるかどうか確信を持てていない人々がより多い
  • 既婚者サンプルに含まれる男性は平均して9時または9時半に帰宅しており、平日に家事・育児に貢献することをほとんど不可能にしている;男女ともにこうした長時間労働の文化をしかたがないものとして受け入れている
  • 妻がフルタイム就業を継続することを意図している少数派グループでは、祖父母が近隣に居住していることや、夫か妻の労働時間が短いといった特徴が見られたが、このグループでは第二子以降を持とうという意図が一般的に弱かった
  • 未婚者のグループにおける知見として目を引くのは、家事負担が重くなることを予期して女性が結婚を忌避するという傾向は見られなかったことである;既婚女性と同様に未婚女性においても、男性の稼得能力は重視されており、このことによって男性の家事への貢献が小さくなることは妥協されるとみなされている
  • 日本と韓国の違いとして、未婚グループにおいて韓国の女性のほうがキャリア志向が強いことが確認された;日本の女性は仕事をキャリアを形成する手段ではなく、社会につながり続けるための手段としてみなしており、「男性のように働く」ことを望んでいない;この傾向は日本では韓国にくらべて既婚女性のパートタイム就業が広まっていることを部分的に反映していると考えられる