金曜の事件に対するハーバード大の学長声明

 

 先週の金曜日に、ハーバード大学の黒人学生がキャンパス近くで逮捕されたという事件がありました。学生は路上で裸になっていて、幻覚作用のあるドラッグを使用していたようです。警官に対して反抗的な態度をとったために、警官が学生の腹部を殴っている様子が映像に記録されています。黒人に対する警察官の強行的な手段の行使がしばしば問題となっているアメリカにおいて、本件も物議を醸しているようです。

 この事件に対して、ハーバード大学の学長が声明を出していました。

 

The events of Friday night are profoundly disturbing. A Harvard student was in obvious distress, and we need to understand how that came to be and whether we could have interceded earlier and more effectively. We have been witness to the use of force against a member of our community, which, regardless of circumstances, is upsetting and compels the search for a deeper understanding. The arrest occurred against the backdrop of increasingly urgent questions about race and policing in the United States, and about racial differentials in health care, raising for members of our community appropriate anxieties—about their own safety and place in our society, about that of their friends and colleagues, and about the world outside our gates.

 

 上記の箇所を読んでいて、正直に言って度肝を抜かれました。人種問題という日本とは簡単に比較できない背景が関わっています。しかし、こうした事件が日本の大学で起きたとしたら、「本学の名誉を傷つけるような事件を学生が起こしたことは極めて遺憾である。厳正な処分を検討する」といった声明が通常出されて終わりなのではないでしょうか。

 人種問題を始めとした様々な社会的分断が懸念されているアメリカではありますが、他方で一流大学のコミュニティとしての強さというものを感じさせられました。

Age distribution of new entrants into tertiary-type A programmes (OECD Education at a Glance 2011)

 

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   Typical students in higher education vary substantially by society. The above figure indicates an age distribution of new entrants into tertiary-type A programmes (roughly equivalent to universities) across selected OECD countries.

  Japan is the least heterogeneous country in terms of age: 80% of new entrants are below 19. This fact must be related to the practices of simultaneous recruting of new graduates and long-term employemt. Most people in Japan never go back to education once they enter the labor market. Sweden is an interesting contrast, where the 80th age percentile is 29.4. The country is known for its lifelong learning policies and universal access to higher education. Korea is similar to Japan with respect to the 20th and 50th percentiles, but shows a greater heterogeneity in the 80th percentile. The difference may partly come from the existence of military draft in Korea.

キケロー『友情について』

 

友情について (岩波文庫)

友情について (岩波文庫)

 

 

友情は数限りない大きな美点を持っているが、疑いもなく最大の美点は、良き希望で未来を照らし、魂が力を失い挫けることのないようにする、ということだ。それは、真の友人を見つめる者は、いわば自分の似姿を見つめることになるからだ。 

人は己れを恃むこと強ければ強いほど、そしてまた、誰の助けも必要とせず、己れのものは全て己れの中にあると考えるまでに、徳と知恵で厚く守られていればいるほど、友情を求め育むことにおいても卓絶するのである。 

財力・能力・資力で大抵のことができる者が、金で贖える他のものは馬にしろ、奴隷にしろ、豪華な衣裳にしろ、高価な食器にしろ、手に入れるのに、いわば人生における最高最美の家具である友人を手に入れないとは、これほど馬鹿げたことがあるだろうか。 

 

 ローマの政治家ガーイウス・ラエリウスによる対話篇という形の作品です。プラトンやアリストテレス哲学と同様に、徳による人間性の完成が強調されており、友情が存在するのも人々の持つ徳ゆえにであるとされています。人は欠乏や弱さのゆえに友情を求めるのではなく、むしろ自立した人々こそ強く友情を求めるのだという箇所は印象的でした。

 また、「いつか敵対しそうな人々とはそれを覚悟した上で友情を結ぶべき」か、あるいは、「いつか敵対しそうな人々は決して愛し始めないよう慎重であるべき」かという議論は、社会科学の信頼形成のモデルを想起させられました。

 

Garland (1991) "The Mid-Point on a Rating Scale: Is it Desirable?"

Garland, Ron. 1991. "The Mid-Point on a Rating Scale: Is it Desirable?" Marketing Bulletin 2: 66-70.

 

 Likert尺度による質問を行う場合に、中間の回答選択肢(「どちらともいえない」)が存在した方がよいのかどうかという問題設定の論文です。中間の選択肢が存在しない場合には、回答拒否を行わない限り、対象者は賛成・反対のどちらかに回答を強制されることになります。このことが回答の傾向に体系的な影響をもたらすかどうかという関心です。

 マーケティングの方法に関する同一の質問に対して、4件法・5件法の2つの選択肢を対象者にランダムに割り付け、結果を比較しています。結果として、中間の回答選択肢がある場合には、社会的に望ましい方向性への回答のバイアス(social desirability bias)がかかりやすいとされています。4件法の場合には、自らの態度の方向性を表明しなければならないのに対して、中間の選択肢がある場合に、社会的に望ましくない方向の意見を持つ人々は、「どちらともいえない」を選択できるために、4件法の場合よりも5件法ではネガティヴな回答が過小になるという解釈です。このバイアスを防ぐためには、中間の選択肢を除外した方がよいと著者は主張しています。

 ただ、「どちらともいえない」が実質的な意味をもつこともありうるので、どちらを選ぶかはケースバイケースかなとも思います。

 

久賀谷亮『世界のエリートがやっている最高の休息法――『脳科学×瞑想』で集中力が高まる』

 

世界のエリートがやっている 最高の休息法――「脳科学×瞑想」で集中力が高まる

世界のエリートがやっている 最高の休息法――「脳科学×瞑想」で集中力が高まる

 

 

 脳科学的な見地からマインドフルネスについて解説されている本です。小説の登場人物に学術的な知見や実践的なアドバイスを語らせるという珍しいスタイルをとっています。「疲れているのは『身体』ではなく『脳』である」という問題設定の下に、認知療法や瞑想を組み合わせたマインドフルネスがなぜ有効なのかというのが主な内容になっています。

 ここ数年、慢性的な首や肩の痛みに悩まされており、運動や整体でも解消されないので、自律神経的な要因から来ているのは何となくわかっていたのですが、その処置のヒントになるようなことがいろいろと得られました。ふだんの呼吸を意識するようにするだけで、だいぶ疲労感が違います。

 

鈴木秀明『効率よく短期集中で覚えられる 7日間勉強法』

 

効率よく短期集中で覚えられる 7日間勉強法

効率よく短期集中で覚えられる 7日間勉強法

 

 

 大学の先輩である資格マニア鈴木さんのご近著です。前にお話を伺った時に取得資格数が350個くらいと仰っていた気がしたのですが、現在は500個を突破されているようです(しかもここ数年は取得ペースが上がっているとのこと)。

 そうしたすさまじい取得ペースを支えている勉強法が本書では紹介されています。毎週のように資格試験を受けている著者らしく、7日間を区切りとするスタイルであり、そして徹底的に無駄を排した合理的な戦術とテクニックが採用されています。たとえば、「エビングハウスの忘却曲線」に基づき、試験1週間前は過去問の傾向をつかむことや覚えなくてもよいことを選別することに注力し、試験直前に暗記が問われる内容を詰め込むなどです。

 自分の今の仕事を考えると、資格試験のようにある時期までに特定の知識を身につけて、合格ラインを超えるというようなことは要求されていません。むしろ、必要な知識は曖昧で、中長期的なスパンで考えるべきものになっています。そういう意味で言えば、本書で紹介されているテクニックは必ずしも役に立つものばかりではありませんでした。ただし、たとえばある統計数値に関して、日本は国際平均よりどれくらい異なっているかというようなことは覚えなければいけないこともあるので、そうした個別の場面で役立ちそうな内容はありました。

 どちらかといえば具体的なテクニックではなく、鈴木さんがこれほどまでに資格を取得し続けるモチベーションがどこから来ているのかということが、もっと読んでみたいと思いました(あとがきでは少し書かれていましたが)。自分の場合は20歳の頃にくらべると、仕事に直接役に立たないことを新しく勉強しはじめようというモチベーションは明らかに低下しているので、部分的に仕事とはいえ、毎週のように新しい資格試験にチャレンジする鈴木さんの姿は素直に尊敬しています。

Heisig and Solga (2017) "How Returns to Skills Depend on Formal Qualifications: Evidence from PIAAC"

Heisig, Jan Paul and Heike Solga. 2017. "How Returns to Skills Depend on Formal Qualifications: Evidence from PIAAC." OECD Education Working Papers, No. 163, OECD Publishing.

 

 国際成人力調査(PIAAC)を用いて、公的な教育資格(学歴)、認知的スキルと労働市場におけるリターンの関係が、国によってどのように異なるのかを検証した論文です。

 

  • 低学歴の人々は平均して認知的スキルが低く、この事実が部分的に労働市場における不利さを説明する。しかし、学歴と認知的スキルの関係、およびこれらがいかに労働市場におけるアウトカムと結びつくかは、国によって相当のばらつきがある。
  • 低学歴の人々とそうでない人々のスキルの格差が相対的に大きく、かつ低学歴者のスキルの分布が均質的である場合に、学歴は雇用主に対して強い負のシグナルを与えうる。こうした「技能の透明性」(skill transparency)の程度によって、特定の社会では低学歴者が労働市場においてより大きな不利に直面しやすい。
  • PIAACをデータとして用いて、低学歴者を・中学歴者をそれぞれISCEDのレベル0から2、レベル3から4として定義する。ISCEDレベル5以上の高学歴者は分析から除外する(低学歴者と労働市場において競合することが少ないため)。認知的スキルの指標としては、計算能力テストの得点を用いる。これは他のテスト得点よりも労働市場におけるアウトカムの予測性が高いことが示されているためである。労働市場におけるアウトカムの指標としては、現職または最後職のISEI得点を用いる。分析は16歳から54歳で、かつ調査時点でフルタイムの就学をしていない人々に限定する。
  • 低学歴者と中学歴者の認知的スキルの格差の大きさは、教育システムの分化度合い(トラッキングの強さ)と正に相関しており、(後期)中等教育における職業教育の拡がりと負に相関している。
  • 低学歴者と中学歴者の認知的スキルの平均的格差が大きく、かつそれぞれの学歴グループ内のスコアの分散が小さい(均質性が高い)国ほど、学歴によるリターンの格差が大きい。

 

 日本も分析に含まれており、低学歴者と中学歴者の平均的なスキル格差は小さいものの、それぞれのグループの均質性はかなり大きい(それぞれのグループ内の分散が小さい)という結果になっています。

 マルチレベル分析も行われていますが、ワーキングペーパーということもあってか、仮説を十分に検証するような分析結果までは出されていません。低学歴者のサンプルサイズが小さいことがネックになっているとのことです。特に日本の場合、ISCEDレベル2以下ということは中卒に対応するので、交互作用を入れた分析だと、推定値がかなり不安定になっていると思われます。