OECD諸国の高等教育費支出の内訳

 

  • OECDEducation at a Glanceの一環として収集されている高等教育費支出の内訳データですが、Public/Privateの区別だけではなく、さらにPrivateの中で"Household"と"Other private entities"が区別して集計されているということを知りました。2012年頃から集計されている国の数が大きく増えているので、自分が知らなかっただけで結構前からのことのようでした。
  •  "Household"は学生と家族による負担、"Other private entities"は民間企業、非営利企業(宗教団体、慈善団体、労働団体)による負担ということでした。
  • たとえば、日本よりアメリカではOther private entitiesの値が大きいのは何となくそうかなという気はしますが、日本も全体支出の中で15%くらいがこのOther private entitiesになっているんですね(2018年)。結構大きいように感じましたが、どのようなものが具体的に集計されているのでしょうか。国別のAnnexを見ても詳しくは書いていませんでした。
  • Education at a GlanceのMethodologyの欄を見ると、"While public loan payments are taken into account, loan repayments from private individuals are not, and so the private contribution to education costs may be under-represented."という記述があったので、たとえば日本学生支援機構の貸与型奨学金は集計されていないという感じでしょうか。

岡田憲治(2019)『なぜリベラルは敗け続けるのか』

 

 

  • 「私は本書執筆で『友』を喪う覚悟を決めた」と帯にあります。これ以上の民主主義の破壊をどうにか止めたいという思いで、あえてこれまでに共に活動してきたリベラル陣営に対して、自省を促すスタイルの本です。本書が刊行されたのが2019年ということで、希望の党をめぐる野党の迷走に関する記述が多めだという印象を受けました。
  • 日本の野党勢力はいつまで経っても「オトナ」になれないとし、極端な善悪の二分で考えようとする傾向や、自分が絶対に正しいという立場から相手を「お説教」する傾向、「ゼニカネ」の問題を軽視する傾向などが批判されています。
  • 先日、法政大の山口二郎先生が本書の著者をTwitter上で批判しているのを目にしました。市民連合として野党間の協力に地道に携わってきた山口先生の立場からすると、いつまでも「オトナ」になれないという本書の主張は的外れという思いがあったのでしょうか。
  • 野党共闘がうまく行っていないのは、「綱領」と「公約」の区別を曖昧にしたまま、ぼんやりと「政策」の話をし続けているからではないかという指摘がありました。「綱領」が志を共にする人々が未来に対する夢やビジョンをまとめた決起の言葉、すなわち「内向きの言葉」であるのに対して、「公約」(マニフェスト)は選挙の際に有権者に訴えかける「外向きの言葉」であるとのことです。そのため、日本共産党が綱領において「日米安保の破棄」を掲げていても、それは公約という4年間で実現する政策目標とは異なるので、野党間で協力可能な「公約作り」は可能だ、とのことでした。この綱領と公約の区別は、共産党に対する連合や国民民主党の主張に対して、どのように考えるべきかといった面で勉強になりました。

非常勤先での授業

  • 今期は非常勤での授業が1コマ対面であるのですが、移動があるので何だかんだで2コマくらいの負担感があります。授業自体は対面の方がやりやすいのですが。
  • 非常勤先での授業の時って、時間的に外食になったり、ふだん行かないところなので気になったものを買ってみたりと、意外と出費がかさむんですよね。今日はタイミング悪くバスを1本逃して、次のバスまでの時間を潰すためにカフェに入ることになりました。授業準備や採点などにかかる時間も含めると、そもそも非常勤の授業は金銭的なコスト・ベネフィットで考えるべきではないという考えもあるとは思いますが。
  • 昔、『こち亀』のエピソードで両津がバイトをするんですが(そもそも公務員の副業になるわけですが、それはいつものことなので置いておくとして)、なかなかお金がたまらないことを不思議に思って振り返ってみると、気づかないうちに出先での飲食代によってほとんどバイト代が残っていなかった、というようなのがありました。非常勤の授業がある時に、よくこの話を思い出します。ちょっと気になったので調べてみたら、両津の全アルバイト履歴をまとめてくれているサイトがありました。おそらく137巻に収録されている回のようです。

成瀬尚志編(2016)『学生を思考にいざなうレポート課題』

 

 

  • 以前にオンライン飲み会の最中に、先輩に教えてもらった本です。
  • 科研費のプロジェクトの一環として刊行されたもののようで、こういうテーマでも1つの研究課題になるのは面白いですね。

 

  • 授業内容から組み立て始めるのではなく、「レポート課題から授業を設計する」という視点の転換。
  • 「レポートの執筆を通して、学生が自分の頭を使いながら考え、それにより学びが深まるような授業」を目指すべき。
  • インターネットの普及で剽窃・コピペが容易になったけれども、「剽窃・コピペはいけない」という指導だけでは不十分で、インターネットを活用することを前提とし、それでも問う意味のあるレポート論題を設定すべき。
  • たとえば、「功利主義とは何か」という定義を問うようなものだと、コピペが簡単にできてしまう。
  • 問いを学生自身が立てる論証型レポートは、学生がルールのわからないゲームをさせられているような感覚を持ってしまう可能性がある。
  • 学生自身がレポートで目指す目的やよさの基準をを理解した上で、創意工夫ができることが重要。
  • 論証型レポートに対して、具体的かつ単一のことを求める論述型レポートが考えられる。
  • 授業内容やテキスト、インターネット上の情報などの「素材」を学生がそのまま用いるだけでは、創意工夫は存在しない。
  • 「まとめなさい」、「説明しなさい」という論題では、素材を書き写しただけのレポートになりやすい。
  • 学生の創意工夫を、「形式面の創意工夫」と、「内容面の創意工夫」に分けて考えることができる。内容面の創意工夫をそれほど求めない場合に、形式面の創意工夫を求めるという方法がありえる。たとえば、「授業内容を小学生にもわかるように口語調で説明しなさい」、「正義とは何かについて対話篇で論ぜよ」といった論題。
  • 内容面での創意工夫の例としては、具体例を提示しながら説明することを求めるというもの。「正義が善に先行すべきと考えられる具体的事例を、テキストに載っている事例以外で挙げよ。なぜ優先されるべきなのか理由も述べよ」。
  • レポートを執筆する際のプロセスについての記述をもとめるという方法。「正義とは何か説明しなさい。その際、どのような文献をなぜ調べたのかなど、レポート執筆のプロセスも含めて書きなさい」。
  • レポートを評価する際のルーブリックの活用。

 

  • 自分の授業を振り返ってみると、わりと資料は詳しく作っていることが多いので、その素材をいかにそのまま流用できないようなレポート論題をつくるか、ということはもっと考えるべきでしょう。論題の設定としては、どちらかというと内容面での創意工夫をどう求めるかという方に頭を悩ませていたことが多く、形式面での創意工夫についてはもっと取り入れてみたいと思いました。

Brigitte Le Roux & Henry Rouanet(2010=2021)『多重対応分析』

 

 

  • Sageの緑のシリーズから翻訳されたものになっています。
  • 訳注がかなり詳しく、翻訳する際の工夫、関連する概念、日本語の関連書籍などが紹介されていて勉強になりました。ただし、「原文の○○という語に対して△△という訳語あてた」ということも逐一訳注にするのは若干くどく感じられ、本文中にカッコ書きで補足するというような形の方が読みやすいように思いました。
  • 幾何学的データ解析」として多重対応分析を位置づけ、線形代数に基づいて基礎的な部分がかなり詳しく書かれています。「データ解析は,きちんと数理的に定式化すれば,結局のところ,固有ベクトルを求めるだけである.データ解析に関するすべての科学や手法は,対角化すべき行列を見つけることにすぎない」(p.2)。
  • 現実のデータを使用した例も豊富で、第何次元まで解釈すべきか、ある軸におけるグループごとの平均点の差はどれくらいであれば「注目すべき差」とみなすべきか、など実践的なアドバイスも見られます。
  • 基本的には多重対応分析を記述的手法(標本の大きさに依存しない)として位置づけつつも、5章では統計的推測へと拡張されます。実際の論文を見ても多重対応分析で何らかの検定を行うというのはあまり知らなかったのですが、著者としては幾何学的なデータ解析においても統計的推測を積極的に用いていくべきという考えのようです。

 

マイケル・サンデル(2020=2021)『実力も運のうち――能力主義は正義か?』

 

  • 途中まで原書で読んで止まっていたのですが、残りを訳書で読み終わりました。
  • 原題は、The Tyranny of Merit: What's Become of the Common Good? なので、かなり思い切った訳ですね。訳題の方が、本の中身をよりストレートに表しているでしょうか。あと、サンデルは日本では正義の講義で広く知られるようになったので、「正義」を訳題に入れたいという方針があったのかもしれません。
  • 特に面白かったのは、5章のハイエクロールズの対比と、7章の分配的正義と貢献的正義の区別。ハイエクロールズは市場と再分配のあり方については真逆といってもよいほどの違いがあるものの、どちらも市場における経済的報酬が功績と一致するという考え方を否定することでは共通しているというのが印象に残りました。
  • 6章では「能力の専制」を緩和するために、選抜システムの改革案が示されています。有名大学の選抜において、レガシー枠を廃止し、一定の学力を備えていればあとはくじ引きで決める(多様性を考慮する際など、場合によって特定のグループに対するくじの数を増やす)というもの。能力を選抜の絶対的な基準ではなくあくまで1つの基準とすることによって、勝者のおごりを抑えることができる。そもそも入試の段階で将来の成功の厳密な予測などできるはずがないから実際的な見地からも望ましく、入試の負担を軽減することで教育上のリソースを確保することもできる。
  • この6章の選抜システムに関する提案を読んで、矢野先生が『試験の時代の終焉』(1991)で論じていたこととほとんど同じじゃん、と思いました。矢野先生は野球というかなり能力が明確だと考えられている分野でさえ、ドラフトによる選抜がその後の成功をうまく予測できているわけではないことを分析していますが、サンデルも本書でノーラン・ライアンがドラフト12巡目で指名されたことを引き合いに出しています。あらためて矢野先生の慧眼に感服しました。
  • 解説は本田先生が書かれていて、メリトクラシーに関しては適切に解説されていると思います。しかし、やはりサンデルはロールズの平等主義的リベラリズム批判にルーツを持っており、たとえば「負荷なき自我」の概念が、本書ではリベラル派が自ら構想する社会システムを維持するための連帯意識を調達できていないことへの批判などにもつながってくるはずです。このあたりの理解を促す上で、政治哲学の先生による解説もあってもよかったのではないかと感じました。
  • 英語で責任(responsibility)というと、その主体は個人であるのが明らかなので、「自己責任」という言葉はおかしい、という話も聞いたことがありますが、原書では"individual responsibility"という表現が使われ、訳書では「自己責任」となっていますね。使われている箇所の意味としても、日本語のいわゆる「自己責任」に近いように見えます。

Möhring(2021)「国家間分析におけるマルチレベルモデルの代用としての固定効果アプローチ」

Möhring, Katja. 2021. "The Fixed Effects Approach as Alternative to Multilevel Models for Cross-national Analyses." SocArXiv. February 22. doi:10.31235/osf.io/3xw7v.

 

 パネルデータ分析の場合とくらべて、国家間のクロスセクション分析においては固定効果モデルはあまり使われないけれども、実際には有用だという論文です。ISSPを使用した再分配の支持が事例として示されており、そこでは固定効果かランダム効果かで実質的な結果の違いはありませんが、固定効果モデルも検証することで頑健性を確認する手段になるとのことです。

 

  • もともとマルチレベルモデルは教育研究の分野で生まれたものだが、そこで分析される生徒が学級・学校にネストされているデータとは異なり、異なる国家の中に個人が含まれるデータの場合には、レベル2である国はランダムサンプリングとはならない
  • 国際比較調査に含まれる国の数は11~31程度であることが多く、推定されるモデルの国レベルの自由度は小さくなる
  • Van der Meer et al.(2001)によれば、国レベルの係数推定値は、少数のはずれ値によって信頼のできないものになりやすい
  • マルチレベルモデルにおいては、マクロレベルの独立変数のみならず、ランダム効果の推定も国レベルの自由度に依存する
  • 研究者は通常、1つまたはごく少数のマクロレベル独立変数を入れるか、異なるマクロレベル変数を逐次的に検証している
  • 固定効果モデルであれば、国に固有の誤差項がモデルにおける他のすべての変数と独立であるという強い仮定に依存しない
  • 固定効果モデルにおいては、マクロレベル変数の調節効果(moderator effects)はクロスレベル交互作用によって推定できる
  • 固定効果モデルは一般的に、マルチベルモデルの結果の頑健性を検証する上で有用である