芦名定道ほか(2022)『学問と政治――学術会議任命拒否問題とは何か』

 

  • 報道になるような新しい話題がないので世間的には下火になった感がありますが、学術会議の会員に任命拒否された6人の研究者による論考がまとめられたものです。
  • メディアによる取材には任命拒否について「特に言うことはない」と述べていた宇野重規先生の執筆された章が読みたくて買ったのですが、結局全部読みました。
    • AとBという2人の人物(片方は明らかに宇野先生を表している)による対話形式で、静かに民主主義のあり方を問うというスタイルでした。
    • 内閣が任命しない理由を明確に示さない中で推測をするのは、「こんなことを言ったからいけないんだ」という「忖度」につながるのでむしろ有害であるという見解はなるほどと思いました。
  • 全章を通じて一番面白かったのは、加藤陽子先生の「現代日本と軍事研究」でしょうか。学術会議が過去に戦争・軍事を目的とする研究に反対する声明を出していたことは、任命拒否が起きた際にも報道されて賛否両論が見られたと記憶していますが、学術会議の内部における検討委員会でも論争があったということは初めて知りました。
    • 関連する論点として、そもそも学術会議は何を代表しているのかというものがあり、「科学者の社会における代表」ではなく、むしろ「社会における全科学者の責任を集約する1つの主体」ではないかという視点は、学問の自由と安全保障に関わる研究のあり方を考えていく上で、今後ますます重要になるように思われました。