サン=シモン『産業者の教理問答 他一篇』

産業者の教理問答―他一篇 (岩波文庫)

産業者の教理問答―他一篇 (岩波文庫)

教科書的には、ロバート・オウエンシャルル・フーリエとともに「空想的社会主義者」の一人として挙げられるサン=シモンだが、この「教理問答」を読む限りでは、その思想はいわゆる社会主義という言葉からイメージされるものとは、いささかずれているという感じがする。
すなわち、市場への政府の介入、生産手段の共有というような主張は、この「教理問答」の中では全くなされていない。中心的な主張となっているのは、社会の中で最も多数を占めている産業者階級(≒生産者、ただし商人も含まれる)に国家予算の管理権限を与えよ、ということ。
執筆時期は1824年。1815年の王政復古ブルボン朝が復活している時代に書かれたもので、産業者階級を社会の第一階級とすることは、王政を脅かすものではないと言っていることも印象的。この後、1830年には七月革命が起きるわけであるが、こうした時期に貴族でもブルジョワジーでもなく、産業者を社会の中で最も重要な存在と見なしたというのは、目の付けどころが違うと言わざるを得ない。

実証的な科学研究の必要性を説いていることも注目される。コントに影響を与えた人物なので、もちろんこれは納得できること。


岩波文庫版に併せて収録されているもう一篇、「新キリスト教」も面白かった。キリスト教の唯一の原理は、「全ての人間は互いに兄弟として振舞うべし」というものであるとし、そこから「キリスト教は最も貧しい人を救済するようであらなければならない」と主張する。そして、この考えに照らして、カトリックプロテスタントなどの全ての宗派はキリスト教の思想を理解しておらず、「異端」であると弾劾している。