- 作者: 宮本太郎
- 出版社/メーカー: 早稲田大学出版部
- 発売日: 2006/09
- メディア: 単行本
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第10章「福祉国家と移民―再定義されるシティズンシップ」は、先日起きたノルウェーの連続テロ事件のことを思い出しながら読んだ。あの事件は、イスラム系移民の増加に不満を持った男の犯行だった(その結果、犠牲になったのはノルウェー人の若者というよく分からないところがあるのだが)。
北欧諸国やオランダでは、労働市場の規制は強い一方で、失業保険や公的扶助の規模が大きいために、労働市場への参入が困難な移民が福祉給付に依存するようになってしまう。
ワークフェア型の福祉国家への再編の下では、就労をはじめとする社会参加がシティズンシップの条件となり、就労において困難な状況に置かれている移民は、「モラルが欠如している」と排除の対象になる。
オランダでは、2000年前後から移民規制の厳格化を求める政党が躍進したという。それは、いわゆる「極右」やネオナチとは異なり、自由・人権といった価値を強調し、女性差別・同性愛差別を認め、近代的な人権や政教分離を認めないイスラムの後進性を批判するという論法で支持を勝ち取っているという。
ノルウェーのストルテンベルグ首相が連続テロ事件後の会見で言った、「私たちは、世界に対して示すつもりです。圧力を受ければノルウェーの民主主義はより強固なものになるということを。」、「暴力に対する答えは、民主主義をさらに強固なものにすることだということを、相手をもっと思いやることが暴力に対する答えだということを、示さなければなりません。」という内容には度肝を抜かれた。(http://www.norway.or.jp/news_events/policy_soc/policy/pmspeech_jul22/)
しかし、使いようによっては民主主義の価値を強調することがイスラム系移民の排除のロジックにもなり得るのだなと思った。
それから、移民は一般的に年齢が若く健康的なので、老齢年金や医療保険の受給率は低く、必ずしも福祉依存をしているとは言えないというのは、なるほどと思った。
他の章については、第4章「福祉国家の再編と言説政治―新しい分析枠組み」の、社会的学習論、アイデアの政治論、言説政治論など、まだまだ知らないことが多い。