盛山(2015)「社会保障改革問題に関して社会学は何ができるか――コモンズ型の福祉国家をめざして」

盛山和夫,2015,「社会保障改革問題に関して社会学は何ができるか――コモンズ型の福祉国家をめざして」『社会学評論』66(2): 172-87.

 「社会学は政策形成にいかに貢献しうるか」という特集の中の論文です。

 社会保障改革において主張されているのは、主流は経済学に依拠した「社会保障の削減」が多く、社会学からは財政難の論理に適切に反論したうえで社会保障制度のあるべき姿を論じることができていないと分析されています。

 社会学は時として、特に福祉・社会保障という分野においては規範的価値を積極的に語るべきこと、そして今後の福祉・社会保障研究は資源をどのように調達するかという財政の問題を無視してはならいことが主張されます。

 この辺りは以前にも盛山先生の論文で同様の主張を読んだことがありますが、「コモンズ型福祉」へと構想を転換すべきとして、Elinor Ostromの研究に触れられているのが興味深いところでした。有限の資源について共同的に生産・調達をしてゆく可能性を考察したOstromの一連の研究が参考になるという趣旨ですが、確かに考えさせられるところがあります。

 私の中でのOstromの印象は、「囚人のジレンマ」に代表される集合的行為の問題を有効に解決する上で、いかに人々の規範や制度のデザインを構築できるかという問題意識に基づいているというものでした。しかし、そこで出てくる事例は、実験室におけるゲームや、あるいは漁業権の設定の仕方などであるため、社会保障と関連させるというのはやや意外に感じました。

 しかし、例えば年金における世代間の利害の対立など、利己的な個人が短期的な利益の最大化を求めることで、中長期的に制度の持続性が脅かされ、社会的に悪い帰結が生じるというのは、問題図式としては似ているところがあると思いました。