村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)

村上春樹の長編作品で、唯一読んでいなかったものを読了。

村上春樹は好きな作家の一人だけれど、しばらく読んでいなかった気がする。最後に読んだのが文庫版の『アフターダーク』で、もう1年半くらい前だったか。文庫になった『東京奇譚集』も読んでいないし。

本作品は、「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」という世界観を異にした物語が、思わぬところでリンクしながら同時平行してゆく。

「世界の終り」では、高い壁に囲まれ、外界から断絶した街で物語が進んでゆく。この街にたどり着いた「僕」は、自らの影を切り離され、心を失くした住人たちと暮らし始める。

「ハードボイルド・ワンダーランド」は、秘密組織の中で特殊な暗号操作能力を身に付けた、「私」が主人公の冒険活劇。老科学者との出会いや対立する組織との攻防の中で、自らの意識に埋め込まれた秘密が明らかになってゆく。


村上春樹の長編作品が、97年に書かれた『アンダーグラウンド』の前と後で大きく異なることはよく知られていることだ。
オウム真理教による地下鉄サリン事件の被害にあった人々を扱ったノンフィクションを書いたことで、社会へのコミットメント志向が強くなったと言われている。


本作品は他の初期作品同様、主人公の引きこもりぎみな態度が見て取れる。特に「世界の終り」の結末部分がそうで、「ここまで引っ張っておいて、そういう終わり方かい!」と思わず突っ込みを入れたくなってしまった。