全国学力テストをめぐる奇妙な状況

文部科学省が昨年度から実施している「全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)」をめぐって議論が錯綜している。

最近、問題となっているのは市町村別の成績を公開することについての、都道府県と文科省との対立。

橋本大阪府知事や、寺田秋田県知事は、情報公開請求にのっとって成績を公開してゆく姿勢を示している。一方の文科省は、成績の公開が学校の序列化を招くことや、不参加の自治体が出てくることを懸念している。

実際、イギリスでは統一テストによって学校が評価・格付けされ、学校が序列化されている。それによって、イギリスの国際的な教育水準は低下したと言われ、見直しの声があげられてきた。


しかし、今回の問題でそもそもおかしいのは、なぜ文科省は、各自治体で独自に情報公開をしてゆく動きが出てくるのを予測できなかったのかということだ。

国学力テストは悉皆調査である。つまり、対象学年である小学校6年と中学校3年のすべての児童・生徒に対して行われる。

一定の数だけを抽出して行う標本調査と違い、悉皆調査を行えば、都道府県別・市町村別のデータが作成できることになる。だとすれば、それらの情報を公開するべきだという動きが出てくるのは容易に予想できたはずだ。

さらに、実施前から指摘されていたことであるが、そもそも全国学力テストの目的からすれば、悉皆調査を行う必要性はなかった。

文科省のウェブサイトによれば、調査の目的は以下のとおりである。

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/zenkoku/07032809.htm

<調査の目的>
○ 国が全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から各地域における児童生徒の学力・学習状況をきめ細かく把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る。
○ 各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図るとともに、そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。
○ 各学校が各児童生徒の学力や学習状況を把握し、児童生徒への教育指導や学習状況の改善等に役立てる。

これから考えると、せいぜい各都道府県ごとに1000〜2000程度のサンプルを抽出すれば十分であるように思う。わざわざ数十億の費用をかけて悉皆調査を行うメリットはあまり感じられない。それよりも、標本調査を行って、二次分析を多く行った方が明らかに有益だと考えられる。


こうした問題がある中、文科省はあえて悉皆調査を行った。にもかかわらず、各自治体の動きに対して、「文科省の指示に従うのは当然」とでも言わんばかりの姿勢を見せていることは、何とも奇妙である。