- 作者: 平野啓一郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/06/26
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上下巻合わせて800ページ近くあるので読み終わるまで時間がかかったが、評判通りの傑作だった。「三島由紀夫の再来」とまで称されるのも宜なるかなという気がする。
色々と大きなテーマを扱っている作品なのだけれど、その一つが「社会システムを根本から破壊しようとする悪意」と言えるもの。
「人を殺す経験がしてみたかった」という言説に見られるような、そもそも社会規範を内面化していない存在(=作品中の表現を用いれば<離脱者>)がいて、その悪意は(例えば原発をふっ飛ばしたり、飛行機でビルに突っ込むというような)社会を崩壊させかねないリスクを持っているとする。社会は、あるいは犯罪の当事者は、そうした悪意に対してどう向き合えばよいのかという問題。
書くべきことは色々ある気がするのだが、どうもまとまらない。とりあえずの感想としては、あまりにも希望のない作品。特に結末には、読み終わった後しばらく呆然としてしまった。作者は、ドストエーフスキイを読み返して本作を書いたといっているけれど、ここまで救いのない作品はなかったような気がするなあ。
ただ、救いとはいえないけれど、主人公の弟が殺される寸前の極限状況で、家族への信頼を口にする場面は泣けた。思考実験的なところは多分にあるのだけれど、家族を裏切れば助かるかもしれない状況で(しかも心のどこかでは家族への不満を持っているにもかかわらず)、なおかつ家族への信義を口にできるというのには、ああ確かに人間はそういう風にもあり得るのかな、と思った。