竹内洋『大学という病―東大紛擾と教授群像』

大学という病―東大紛擾と教授群像 (中公文庫)

大学という病―東大紛擾と教授群像 (中公文庫)

昭和三年、三・一五事件で東京帝国大学の検挙者が続出、学内では左傾教授の処分が行われた。左傾認定を受けた大森義太郎は自ら辞任するが、それは十年にわたる派閥抗争の序章に過ぎなかった――。経済学部を壊滅状態に追いやった「大森事件」とのその余波を豊富なエピソードとデータを駆使して描き、大学のあり方を問う警世の書。
(裏表紙より)

90年代に入ってからの大学改革を取り巻く状況・言説が、実は昭和初期や全共闘時代にもすでに見られていたということや、大学の自治という理念が実際には文部省や内務省からの圧力によって極めて「偽善的」な(左傾教授の「自発的」辞職という)かたちで保たれていたということが、大森義太郎をはじめとする東京帝国大学の教授たちのドラマとして描かれている。帝国大学時代の派閥抗争と単に見るのではなく、全共闘時代まで時代設定を拡げるというのが、卓抜だと思った。

大学院重点化や法人化の話と関連させている最終章は、大学知・学問知への不信という観点から主に描かれているが、それまでに分析されてきた派閥抗争・人事という側面からも読み解いて欲しかった。もっとも、最終章は「昔は昔にあらず、今は今にあらず」ということを示すためのものであるので、記述の薄さは本書の価値を損なうものではないと思うけれども。

ある教授が同僚の教授の妻との不倫をしていたとか、またある教授は裸踊りの一発芸を持っていたとか、そんなことまで書くのかというくらいよく調べすぎ。解説によると、本書は著者の「もっともお気に入り」の著作とのこと。確かにそんな感じを受ける。