Halford and Savage(2017)「ビッグデータと社会学的に対話する――交響的社会科学とビッグデータ研究の未来」

 

Halford, Susan and Mike Savage. 2017. "Speaking Sociologically with Big Data: Symphonic Social Science and the Future for Big Data Research." Sociology 51(6): 1132-48. 

 

  • ビッグデータ」とはもともと、従来のコンピュータの保管・分析能力を超えるデータセットを表すために作られた言葉であったが、現在では日常生活のデジタルトレースに内在する様々な性質を含むものになっている
 
  • 社会学者によるビッグデータ分析への懐疑
  • Goldthorpe(2016)「ビッグデータが『知識資本主義』に対してどのような価値を持ちようとも、社会科学に対して持つ価値は、少なくとも現時点では非常に疑問の余地がある」
 
  • Pikettyの『21世紀の資本』、Putnamの『孤独なボウリング』、Wilkinson and Pickettの『平等社会』は、いずれもビッグデータを使用したものではないが、これらのアプローチは革新的な形によるデータの組み立てをしており、それをここでは「交響的社会科学」(symphonic social science)と呼ぶ
  • これらの著者たちは、社会学者が「社会学的想像力」と呼ぶものの際立った刷新を可能にするような、「全体像」の議論をしている
 
  • 交響的アプローチとビッグデータ分析の類似性
    • (1)複数の、かつ多様な「発見された」データ源を別の目的で使用する、
    • (2)相関関係の協調
    • (3)視覚化の使用
 
  • 交響的アプローチとビッグデータの重要な差異
    • (1)交響的社会科学は豊かな理論的認識と(2)野心的で多岐にわたる社会的問題に取り組むために注意深く選ばれたデータとを組み合わせる
    • (3)ビックデータ分析は、数時間の間における「リアルタイム分析」や特定のスーパーマーケットにおけ購買行動などのミクロなパターンに注目するのに対して、交響的社会科学は長期的なトレンドと多岐にわたる比較に注目する
    • (4)相関は因果に取って代わる(replace)のではなく、むしろ因果を排除し(displace)、因果的な主張は推測統計から社会学的な概念と理論へと切り替えられ、またこれらの概念と理論は繰り返されるモチーフと交響的なナラティブを結びつける
    • (5)ビッグデータ分析では可視化はデータを提示する上での技術政治的な方法として用いられるのに対して、交響的アプローチでは可視化は意図的な分析戦略として採用される
 
  • 交響的社会科学における因果の主張
    • WikinsonとPickettの研究では、複数のデータを利用した線形回帰分析が繰り返し行われ、所得の不平等と特許の数、寿命などの29もの異なるトピックの関係が示されている
    • Pikettyも様々な国における富の集中の例を積み上げている
    • これらの著者たちは因果に関心がないわけではなく、むしろ因果を多くの実証例による精緻化(elaboration)と詳説(explication)によって立証しているのである
    • これらの著者たちは定量的研究の専門家であるものの、複雑な統計モデルを使用するのではなく、理論的な議論によって裏付けされた相関の証拠を繰り返すことで因果を主張している