R.P.ドーア『学歴社会――新しい文明病』

学歴社会新しい文明病 (岩波モダンクラシックス)

学歴社会新しい文明病 (岩波モダンクラシックス)

原書が出版されたのは1976年。全世界的に進む、中等教育高等教育への進学の拡大と、それに伴う弊害について述べられた本。日本、中国、スリランカ、ケニヤ、タンザニアキューバなどの事例が紹介されている。

著者は、本来人間の知識・技能・人格の発達のために行われるはずの教育が、単に学歴という「証明書」取得の手段に成りさがってしまっていることを批判する。さらに、より高い学歴を求める人々が増え、社会の高学歴化が進むにつれて、単に学歴を持っているというだけでは就職ができなくなる(=大卒タクシードライバーの例)。そして、ある水準の学歴を持っていることが就職のチャンスを狭めないための最低要件になり、人々が学歴を求める傾向はより強まる。こうした「学歴インフレ」の問題についても述べられている。

「学歴社会」というのは、日本社会を分析するときに用いられる概念の一つだが、実はそれが日本だけにとどまらず他の国々でも同様の現象が見られることが本書では指摘される。
しかも、スリランカやケニヤなどの後発的に近代化が進む国では、いっそう受験競争が過熱しており、高学歴失業者の問題もより早く出てくるということである。


教育がもともと人間の陶冶のために行われるものであるとか、「学歴インフレ」は悪いことしか起こしていない(著者は、進学率の拡大に伴う社会的収益率の上昇について懐疑的である)、とかいう著者の仮定については、単純には依拠できなさそう。

また、本書が刊行されてからの日本では、少子化や大学設置基準の大綱化などがあって、「学歴社会」というイメージに対して疑問も投げかけられている。

しかしながら、「学歴社会」というのは、教育と社会の関係を見るにあたってまだまだ強力なツールであるのは確かであり、本書から学ぶことも大変に多いように思った。