Bol, Thijs. 2015. "Has Education Become More Positional? Educational Expansion and Labour Market Outcomes, 1985–2007." Acta Sociologica 58(2): 105-20.
人的資本と産業化のプロセス
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人的資本論は教育拡大によって学歴の効果がどのように変化するかに関して、強い予測を与えない;教育へのリターンは供給と需要の差に依存すると主張するためである
ポスト産業社会における教育の位置モデル
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Thurow(1975)によると、採用のプロセスは労働行列(labor queue)と仕事行列(job queue)の2つによって規定される
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労働行列とは雇用主がシグナル化された特徴(教育がもっとも重要)に基づいて求職者を選別するものであり、仕事行列は労働者が仕事を選別するという仮想的な列である
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雇用主は労働行列の先頭から求職者を採用しようとし、求職者は仕事行列の中でもっとも地位の高い仕事を得ようとする
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このモデルでは教育に対するリターンは他の求職者の学歴構成に依存する
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Thurowにとって、学歴は生産性を高める技能には無関係であった;一般的であれ特殊的であれ、仕事上のほとんどの認知的技能は採用後のOJTによって獲得されるものと主張されている
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教育の位置モデルは、人的資本よりも需要側をより重視している;というのも仕事の機会は特定のタイプの仕事に需要がある際に雇用主によってつくられるものだからである
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教育の位置モデルは人的資本論よりも、学歴と要求される技能レベルの「ミスマッチ」のトレンドをよりうまく説明することが可能である
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教育拡大によって、低技能の労働者は(学習能力などにおいて)同質化している傾向にあるため、雇用主はある仕事にそれほどの教育が必要なくとも高学歴の人々を求めるようになっている
データ
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ISSPの1985~2007年データを使用
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28ヶ国における、被雇用の20~35歳の人々がサンプル(N=51,221)
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すべてのモデルには調査年の固定効果、国の固定効果、国×学歴の交互作用を投入
絶対的・相対的学歴の指標
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絶対的な学歴は教育年数を使用する;カテゴリカルな学歴レベルよりも、時代を通じた比較可能性が高いため
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相対的な学歴は、それぞれの国-コーホート(同一の卒業年)の組み合わせにおいて、教育年数を0から100のパーセンタイル値に変換することで得る
方法
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2レベルのランダム効果モデルを使用
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絶対的学歴と相対的学歴は強く相関している(R=0.84)ので、別々に投入したモデルの後に、同時に投入したモデルを推定
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国家間よりも時点間の変動に関心があるため、国家間の異質性は国レベルの固定効果によって統制し、国×学歴の交互作用を投入する
変数
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従属変数には所得を使用するものの、国によって間隔尺度で測定されていたり、カテゴリーでしか測定されていなかったりする
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それぞれの国・調査年において、個人の所得を中央値で割った値を対数化する
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この値がゼロであれば、ある個人の所得が中央値に一致することを意味する
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個人レベルの統制変数として、ジェンダー、婚姻状態、従業上の地位(フルタイム・パートタイム)、経験年数(学校卒業後の経過年)、経験年数の2乗、学歴×教育年数
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教育拡大の指標として、国-コーホートレベルにおいて、学生数に占める高等教育在学者比率を用いる(Cross-National Time-series Data Archiveから得られた)
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交互作用に入れる変数はすべて全体平均に対して中心化
結果
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高等教育在学者比率×教育年数は有意でないのに対して、高等教育在学者比率×相対的学歴は正に有意;交互作用の係数は0.347であり、高等教育在学者比率がもっとも低いケース(6%)ともっとも高いケース(34%)を比較すると、相対的学歴の効果は0.11(0.28×0.347)となる
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教育拡大につれて、学歴の位置財としての価値が高まることを意味している
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絶対的学歴と相対的学歴を同時に投入したモデルでは、どちらの変数も正に有意であり、係数は絶対的学歴がわずかに大きい;教育は完全に位置財でも、絶対的な価値を持つわけでもない
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絶対的学歴と相対的学歴を同時に投入したモデルの交互作用では、高等教育在学者比率×相対的学歴が有意であり、高等教育在学者比率×教育年数は有意ではない
考察
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なぜ相対的学歴が雇用主から見てより重要になるのか
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高学歴者の過剰供給によってミスマッチが起きると、教育と仕事の連関が弱まる
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雇用主はこれに伴って相対的な学歴に基づいて採用を行うようになる
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分析は国家間の異質性を無視してトレンドに注目したものであり、今後の研究によって構造-制度的な要因による国家間の差異の検証が必要である