ジョン・ロールズ『正義論 改訂版』

正義論

正義論

川本先生の進みがあまりにも遅いので、出版社も半ば諦めているという話を以前に聞いたのだが、訳者あとがきを読むかぎり、共訳にシフトしたことが大きかったようだ。ともあれ、これが日本語で読めるというのは幸福なこと。


ロック、ルソー、カントに代表される社会契約の伝統を引き継ぎ、功利主義よりも優れた道徳理論を提出するという目的で書かれている。

「無知のヴェール」に包まれた原初状態という情報を制約された状況下において、合理的な諸個人が討議して契約されたルールが、「しっかりした道徳判断」に矛盾しないことを導き出す、というような論法である。


正義の二原理(の最終版)をメモ。

第一原理

各人は、平等な基本的諸自由の最も広範な全システムに対する対等な権利を保持するべきである。ただし最も広範な全システムといっても〔無制限なものではなく〕すべての人の自由の同様〔に広範〕な体系と両立可能なものでなければならない。

第二原理

社会的・経済的不平等は、次の二条件を充たすように編成されなければならない。
 (a)そうした不平等が、正義にかなった貯蓄原理と首尾一貫しつつ、最も不遇な人びとの最大の便益に資するように。
 (b)公正な機会均等の諸条件のもとで、全員に開かれている職務と地位に付帯する〔ものだけに不平等がとどまる〕ように。
[402-3]


貯蓄原理(第44節)の考えが面白い。

もし(おそらくごく初期の諸世代を除いて)すべての世代が利益を得るべきなのであれば、契約当事者たちは貯蓄原理に当然のように合意しなければならない。その原理によって、各世代が先行する諸世代から受け取るべきものを受け取り、また後から来るものたちのために自らの公正な分担をこなすことが確保される。
[386]

各世代の内部では正義の第一原理と公正な機会の原理とが格差原理よりも優先するのに対して、世代間では貯蓄原理が世代間での格差原理の適用領域を限界づける。
[390]

やや唐突に出てくるし、経験的にどのように適用されるのかという問題は置いておくにしても、世代間の正義を考える上で重要な示唆が含まれていると感じた。社会学が理論的にはあまり考えてこなかった問題かもしれない。



色々まだ分からないことが多いのだが、特により知りたいと思ったのは「財産所有のデモクラシー」について。