Sako (1991) "Institutional Aspects of Youth Employment and Training Policy in Britain: A Comment on Marsden and Ryan"

Sako, Mari. 1991. "Institutional Aspects of Youth Employment and Training Policy in Britain: A Comment on Marsden and Ryan." British Journal of Industrial Relations 29:485-90.

 Marsden and Ryan(1990)による、職種労働市場(OLM)と内部労働市場(ILM)の比較研究について、批判的な検討を行ったコメント論文です。
 Marsden and Ryanは、OLMとILMの利点を比較した上で、徒弟制に基づいたOLMを評価しています。しかし、著者は、Marsden and Ryanは誤った暗黙の仮定に基いて議論を行っているといいます。それは、ILMにおける雇用主は、すでに職業的な教育知識・資格を保有した若年者を新規に採用するというものだとのことです。しかし、これはフランスやイタリアでは実際にそういったことが起こっているけれども、日本においてはあてはまらず、ILMにおける論理的な要件ではないと主張します。
 Marsden and Ryanは、ILMと比較してOLMにおいては、(1)若年者の雇用シェアが高い、(2)熟練労働への若年者のアクセスがある、(3)二次部門における雇用に若年者が停滞することがない、という3つの利点を挙げています。OLMにおいては若年者の給与が相対的に低く、雇用主は若年者を雇い、訓練させて後に熟練労働者にすることへのインセンティヴが高いという理由によるとのことです。一方で、ILMにおいては若年者の相対的な給与が高いため、熟練労働へのアクセスが制限され、多くは二次部門における雇用に集中することになります。
 著者は、なぜかOLMにおいては若年者の相対的な給与が低いのかについて注目をします。この事実はたしかに統計によって裏付けられているものの、しかしMarsden and RyanはILMを、「職場における訓練が通常あまりフォーマルではなく、徒弟制におけるものよりも短い。また入職以前の職業資格が必要な場合もある」という独特の意味で定義していると批判します。さらに、雇用主が高年者への選好を持っているため、若年者は低技能の仕事を受け入れるしかないという見方がされているとのことです。
 すなわち、ILMにおいては、雇用主が一般的技能に対する訓練を行わないという想定です。また、若年者はあらかじめ学校で得た職業資格を保有しており、採用段階においては「職業的な格下げ」('occupational downgrading')を甘受しなければならないということも想定されています。しかし著者は日本の例を挙げ、雇用主が内部労働市場において一般的・特殊的訓練の双方を行うことはありえることであり、また日本では学卒者が読み書き・計算能力などを身につけているものの、職業資格は何も持っていないことを指摘します。日本では、年功賃金の一部としての若年層の低賃金は、雇用主が一般的・特殊的訓練の双方を提供することによって、受け入れられるものになっていると主張します。
 著者のここでの主張は、Marsden and Ryanとは逆に、ILMは若年層の相対的な賃金が低く、雇用主が一般的訓練も行うという条件の下では、OLMと同様に好ましいものとなりえるはずだというものです。また、その条件は教育システムの性格、すなわち雇用主が職業資格よりも一般的な教育達成をどれだけ重視するかということに、部分的に依存するというものです。
 さらに、著者はILMがよりOLMより優れている可能性として、キャリア全体を通した技能形成に注目します。ILMにおける訓練がキャリア全体を通して行われるものであれば、技術革新による要請の変化に応じることがより容易だといいます。徒弟制を通じた職業資格の獲得を行うようなシステムでは、官僚的な手続きによってカリキュラムの変更を行わなければならず、現在・将来の必要から遅れてしまう可能性を指摘しています。