Bol and van de Werfhorst (2013) Educational Systems and the Trade-Off between Labor Market Allocation and Equality of Educational Opportunity"

 

Bol, Thijs and Herman G. van de Werfhorst. 2013. "Educational Systems and the Trade-Off between Labor Market Allocation and Equality of Educational Opportunity." Comparative Education Review 57(2): 285-308.

 

メモ
  • 教育システムの2つの次元:(1)トラッキング、すなわちある教育段階における異なる教育プログラムの存在、(2)職業教育志向のレベル

  • この論文による2つの貢献:(1)トラッキングと職業教育の志向性について新たな指標を提案、(2)労働市場への生徒の割り当てと教育機会の平等という潜在的トレードオフを示す

  • 異なるトラックを設けて職業教育を分離するという形による教育システムの分化は、19世紀の教育拡大とともに起こった(Archer 1979)

  • Kelly and Price(2011):教育システムのトラッキングの存在は、技術機能主義的な説明と、社会階層理論による説明がある

    • 技術機能主義的な説明によれば、教育システムの分化は、産業革命によって職業的スキルを持った労働者への需要が増したため

    • この主張は、労働市場の供給側の変化が需要側の変化によって引き起こされたと想定している

    • これに対する批判として、教育システムの分化は社会階級間の境界を制度化するためのものだという主張

    • T. H. Marshall(1950)は、「教育システムの分化は、階級内の類似性と階級間の異質性を促進することで、社会的距離の基準をより強調し、正確にする」と述べた

  • 現代の教育システムにおける国家間のばらつきは、それぞれの国における供給・需要側のアクター間の交渉による結果である(Thelen 2004)

    • ドイツ、アメリカではともに19世紀に職業教育プログラムが設立された

    • ドイツは雇用主、労働組合、政府の集合的行為の結果として、職業教育を維持・拡大することにより成功した

    • これに対して、アメリカではすでに存在した一般教育に職業教育は従属化され、周辺的なものに留まった

  • 教育システムの分化にはトレードオフが存在しうる;学校から仕事への移行を円滑にする一方で、社会的グループ間の教育機会の平等を減少させうる

    • これらは政策上のトレードオフとみなされるかもしれないが、もし社会的距離の維持がエリートによって意図されたものであれば、真のトレードオフとは言えないかもしれない

  • 労働市場への割り当ての効率化は、獲得されたスキルと、教育資格による明確な「シグナル」によって理論的には説明される

  • Wolbers(2007):職業教育の強い国では、学校卒業から最初の重要な仕事を獲得するまでの期間が短い

  • Allmendinger(1989):教育システムがより分化した国では、学歴と職業的地位の結びつきが強い

    • 関連して、トラッキングの強さは職業移動の少なさに結びつくことが予想される

  • 中等教育のトラッキングが強い国では、社会的出自が生徒の成績に与える影響が強くなる(Brunello and Checchi 2007)

    • このことから、より教育システムのトラックが分化しているほど、社会的出自が学歴達成に与える影響が強いことが予想される

  • ラッキングの水準を、次の国レベルの変数の因子分析から作成:(1)最初の選抜が行われる年齢、(2)初頭・中等教育の合計カリキュラムの数のうちトラック化されたカリキュラムが占める割合、(3)15歳の生徒が選ぶことができるトラックの数

  • 職業教育のうち、デュアルシステムによるものは特に職業志向性が強い

  • このため、職業志向性を2つの変数で操作化する:(1)職業教育の普及度→後期中等教育段階で職業教育プログラムに在籍する生徒の割合、(2)スキルの特殊性の強さ→後期中等段階の職業教育のうち、デュアルシステムで行われる割合

  • ラッキングと職業志向性は相関を持ちうる

    • そもそも、ある程度のトラッキングが存在することは、職業プログラムが存在する上での前提条件と言いうる

    • しかし、社会階層研究の慣習に従い、トラッキングと職業志向性は別のものとして扱う

    • ノルウェーのように、トラッキングの程度が小さい職業プログラムもある

  • 従属変数:(1)成人失業率に対する若年失業率の割合(UNESCO 2002)、(2)最初の重要な仕事を獲得するまでにかかる期間(OECD: Employment Outlook 2008)、(3)教育年数が職業的地位に与える影響の強さ(ISSP 2008→ISEI)、(4)15~24歳の人々の平均勤続年数(OECD 2006)、(5)15歳時のテスト得点における社会階層の上位・下位(十分位点の最上位・最下位)の差(PISA 2009)、(6)子どもの教育年数と父親の教育水準の関連(ESS 2008)

  • 統制変数:GDP、政府支出のうち教育支出の割合、OECDの雇用保護指標、国レベルの失業率、中等教育段階における私立学校割合(PISA 2006)

  • 分析結果

    • Breen(2005)と整合的な結果として、職業教育のサイズよりもむしろ、デュアルシステムの強さが若年失業率を低下させている

    • 雇用保護が強い国ほど、労働市場流動性が小さく、学卒者が仕事を見つけるのが難しい

    • 職業教育の普及度が高いほど、学卒者のジョブサーチの期間が短い

    • ラッキングの程度が強い国ほど、教育年数と職業的地位の結びつきが強い

    • ラッキングの程度が強い国ほど、同じ仕事における平均勤続年数が長い

    • ラッキングの程度が強い国ほど、成績の社会階級格差が大きい

    • ラッキングの程度が強い国ほど、社会的背景と教育達成の結びつきが強い

    • ラッキングの水準が同程度であれば、職業教育の志向性は社会的背景と教育達成の結びつきに関係していない

  • 教育機会の不平等をもたらしているのはトラッキングのみであり、職業教育の志向性ではない

  • これに対して、労働市場へのアクセスに重要なのはもっぱら職業教育の志向性である

  • ラッキングは主に中等教育の初期段階における教育システムの分化であるのに対して、職業教育の志向性は後期中等教育(および高等教育)における教育システムの分化である

    • それゆえ、中等教育の初期段階におけるトラッキングを制限する一方で、雇用主の関与を伴うデュアルシステムを含めた職業的志向性を高めれば、トレードオフの問題は小さくなるだろう

    • しかし、こうした方向への政策変化が可能であるかどうかは、政治的・社会的エリートが平等と労働市場への適応という両者を、同様に重要な教育の目標とみなすことができるかどうかに依存する

 
感想
  • ラッキングの新しい指標はなかなか興味深かったです。しかし、やはりこうした作り方だと日本は低めに出ますね。高校段階における入学偏差値による学校間の序列は、日本の教育社会学ではしばしば「トラッキング」として議論されてきましたが、国際的な文脈では別の言葉に置き換えたほうがよいのでしょうか。
  • Appendixにraw dataが示されており、主要な国の数値は頭に入れておいたほうがよさそうです。