Bol et al.(2019)「学校から仕事への連関、学歴のミスマッチと労働市場のアウトカム」

 

Bol, Thijs, Christina Ciocca Eller, Herman G. van de Werfhorst, and Thomas A. DiPrete. 2019. "School-to-Work Linkages, Educational Mismatches, and Labor Market Outcomes." American Sociological Review 84(2): 275-307. 

 

  • いやー、ASRの論文は一読や二読では理解しつくせない点が多いですね。学歴・専攻分野にマッチした職業の操作化の方法がまだよくわからないです。

 

 

  • 職業特殊的スキルが労働市場のアウトカムを高めるかどうかは、繰り返し問われてきた
  • 教育システムの制度構造に注目する研究は、制度を国レベルで捉えるために国家内の異質性を捉えることに失敗している
  • 学校から仕事への移行の結びつきの強さが賃金と雇用に対していかなる効果を持つかについて、フランス、ドイツ、アメリカの3ヶ国のデータによって検証する
  • 既存研究では、学歴にマッチした職業に従事する人々はミスマッチである職業に従事する場合にくらべて、平均的に高い賃金を得ることが明らかにされてきた
  • これらの多くの研究は人的資本理論に従っており、人々は職業特殊的スキルを学校で身につけ、マッチした職業についた場合にはこうしたスキルを生産性と賃金に変換できるという議論である
  • 他方で、資格理論(credentialing theory)では教育は技能を生み出す制度というよりも、人々をふるい分ける制度としみなしてきた;ただし、資格理論は専攻分野による違いと水平的なミスマッチの効果については説明が不十分である
  • この研究では、(ミス)マッチを垂直的・水平的両面において概念化する;たとえば、医師が看護師の仕事についた場合には、垂直的にはミスマッチであっても水平的にはマッチしていると言えるかもしれない
  • 国家間の違いに注目する研究では、強固な教育訓練システムの下では、学校から仕事への移行はより円滑となることが指摘されてきた;こうした潮流にしたがい、職業特殊的な教育システムを持つ国々においては、学歴にマッチした職業につくことの利益がより大きいと予想する;他方でこうした国々では、期待された職業へのマッチングが失敗した場合のペナルティもより大きいと考えられる
 
  • 仮説1:学歴にマッチした職業の人々は、同じ学歴を持ちつつも異なる職業の人々よりも高い賃金を得る傾向にある
  • 仮説2:ある学歴と職業の強固な連関は、その学歴へのリターンを高める
  • 仮説3:強固な連関による利益は、学歴にマッチした職業の労働者においてより大きい(連関の強さとマッチングの有無の交互作用)
  • 仮説4:特に職業特殊的な教育システムを持つ国々おいては、マッチングによる利益(あるいはミスマッチによるペナルティ)がより大きい
 
  • データ
    • フランスは2005~2011年における4半期ごとの労働力調査
    • ドイツは2006年のマイクロセンサス
    • アメリカは2009年のACSと2004年・2008年のSIPP
  • すべての国に関して、分析サンプルは18~65歳のフルタイム労働者に限定し、自営労働者は除く(フランスのデータにおいて自営労働者の所得が記録されていないため)
  • フルタイム労働者に限定するのは、パートタイム労働者の労働時間がドイツとアメリカのデータでは不十分であるため
  • 雇用の有無を従属変数とした分析では、フルタイム労働者、パートタイム労働者、自営労働者、失業者を含める
  • 学歴と職業の連関の強さには、他グループにおける分離を測定する相互情報量指数(Mutual Information Index)を使用する
  • 学歴・専攻分野の分類にははISCED-97を使用する
  • 職業にはISCO-88の3桁分類を使用する
  • ある学歴に対するマッチした職業は、学歴・専攻分野と職業が統計的に独立である場合にくらべてもっともつきやすい職業として操作化する;次にこうした得られた反実仮想的な度数と実際に観察された度数と比較する
  • ある学歴・専攻分野においてもっとも一般的な10の職業をはじめに特定した後に、学歴・専攻分野と職業が統計的に独立な場合とくらべて比率がもっとも増加する2つの職業をマッチした職業とする
  • 連関の強さは学歴・専攻分野レベルの特性であり、マッチした職業とは個人レベルの特性であることに注意が必要である
  • 回帰モデルには他の変数として、年齢、年齢の2乗、フルタイム労働であるかどうか、ジェンダーを含める
  • それぞれの国ごとの回帰モデルにくわえて、固定効果によって広く括られた専攻分野が同一である人々の間の所得格差を分析するモデルも用いる
 
  • 教育と職業の連関の強さは(弱い)正の関連を持つ;特に高等教育において、連関の強さは高い賃金をもたらしている
  • マッチした職業についている人々は、ミスマッチの職業についている人々にくらべて高い賃金を得ている
  • 連関の強さによって高い賃金が得られるという関係は、マッチした職業についている人々においてとりわけあてはまる
  • 国ごとの違いとして、ドイツの後期中等教育段階で職業特殊的な分野を修了した人々は、マッチした職業についた場合に得られる利益が大きい;この傾向はより学校ベースの訓練システムを持つフランスのサンプルには見られない
  • 連関の強さと失業率の間には負の関係がみられる
  • 国の固定効果を含めたモデルでは、連関の強さによる失業を防ぐ効果は、特に後期中等教育学歴の男性被雇用者において大きい
  • 連関の強さは労働市場の柔軟性を失わせるので失業リスクを高めるという主張とは異なり、年齢の高い労働者において失業リスクが高まる傾向がみられなかった;むしろ年齢とジェンダーにかかわらず、連関の強さは失業を減少させる傾向がよりみられた
 
  • この研究の限界としては、国家間の比較では頻繁に用いられる教育システムの標準化や階層化のレベルが含められていないというものが挙げられる
  • ミスマッチによる効果とその連関構造によるばらつきの説明としては、人的資本理論と社会的閉鎖理論をありうるメカニズムとして挙げたものの、これらのメカニズムを検証可能なデータとはなっていない
  • 分析の結果は、一般的スキルと特殊的スキルがゼロサムの関係にあるのかどうかという議論に対して新たな方向性をもたらしうる;教育プログラムは職業への強い連関とともに相当の一般的スキルをもたらしうるし、こうした専攻分野の修了者は一般的スキルと特殊的スキルの組み合わせから所得の優位を得ているかもしれないのである