Sharpe (2015) "Your Chi-Square Test is Statistically Significant: Now What?"

 

Sharpe, Donald. 2015. "Your Chi-Square Test is Statistically Significant: Now What?" Practical Assessment, Research & Evaluation 20(8): 1-10.

 

 カテゴリカル変数における独立性のカイ二乗検定が有意になった際に、さらに何をなすべきかに関して、(1)残差の計算、(2)個別セル間の比率の比較、(3)部分オッズ比の検定(ransacking)、(4)部分クロス表の分析(partitioning)という4つの方法が検討されています。

 

 いくつか大事そうなところを書き留めておきます。

  • 標準化残差と調整済み標準化残差の違い→標準化残差は{(観測度数)-(期待度数)}を、期待度数の二乗根、すなわち推定される残差の標準偏差で割るのに対して、調整済み残差の場合は残差の「標準誤差」で割る。
  • 特定のセルの比率どうし( p_i, p_j)を比較する場合は、 z= \frac{p_i -  p_j}{\sqrt{SE^2_{p_i}+SE^2_{p_j}}}を、対応する自由度におけるカイ二乗分布閾値の二乗根に対して検定する。
  • 部分オッズ比の検定は、対数オッズ比の標準誤差が SE={(1/f_{11}+1/f_{12}+1/f_{21}+1/f_{22})}^{1/2}で計算できることを利用する。
  • 部分クロス表は適切に分割した場合に、それぞれの尤度比カイ二乗値の合計が、全体クロス表におけるそれに一致する。ただし、Pearsonのカイ二乗値ではこれは当てはまらない。

山尾志桜里(2018)『立憲的改憲――憲法をリベラルに考える7つの対論』

 

立憲的改憲 (ちくま新書)

立憲的改憲 (ちくま新書)

 

 

 「統治権力を主権者の手によって縛る」という憲法本来の機能に立脚した「立憲的改憲」という著者の立場を、7人の専門家との対談から展開しています。7人目の対談者である駒村先生が討論者のセミナーに先日参加する機会があったので、自分にとってはタイムリーな本でした。目下起こりそうな憲法改正の動きを考える上で、必要な論点はおおむねすべて出ていそう、といっても過言ではないかもしれないくらい厚みのある対談集になっています。

 議論をわかりやすくするために、(1)「個別的自衛権に限るか、集団的自衛権を許容するか」、(2)「9条2項と自衛隊の矛盾を解消するか、放置するか」という2つの軸から、「立憲的改憲」の他に、「安倍加憲」、「石破9条2項削除案」、「護憲」という4つの選択肢が挙げられています。石破議員の提案は集団的自衛権を許容する点では対立するものの、9条2項と自衛隊の矛盾を解消しようという姿勢は明確であり、「何も変わらない」と強調する安倍加憲案よりも誠実であると評価されています。石破議員の著書とあわせると、より理解が進みますね。

 いくつか重要だと思った論点をメモしてみます。

  • 改憲」という言葉が右派と結び付けられてきた戦後日本の不幸、9条さえ守れば日本の安全保障が可能になると信奉してきた護憲派の欺瞞
  • 憲法典の改正のみならず、日本の将来的な安全保障の構想、特に日米地位協定の問題をいかに考えるか
  • 現状の司法が統治行為論に基づいて違憲判断に消極的であることから、憲法裁判所の設立が求められるかどうか
  • 多数派の意思を反映させる仕組みである民主主義と、多数決によっても侵害できない普遍的な権利を擁護する立憲主義のバランス
  • 選挙以外に一般市民が政治に声を届ける手段が限られているという日本の制度的特徴
  • 「立憲的改憲」の目的を達成するために、憲法典の改正は真に必要なのか、それとも通常立法の範囲内で可能なのか

 

マーク・ピーターセン『日本人の英語』

 

日本人の英語 (岩波新書)

日本人の英語 (岩波新書)

 

 

 前に一度読んだものですが、再読です。

 岩波新書の中でもおそらく相当に売れている部類で、私が購入した時点(2010年)で65刷となっていました。しかし、内容はあらためて読んでみるとなかなか高度で、英語を実践的に使うようになった今のレベルで、ようやく理解できたことも多いという印象です。というか、例文の時点で難易度がかなり高いです(もともと雑誌『科学』の連載だったものを、新書にする段階で噛み砕いてはいるとのことですが)。

 日本人が躓きやすい順に、章別にポイントを設けてくれているので、英語を仕事で使っている人にはかゆいところに手が届く構成になっていると言えるでしょう(不定冠詞→定冠詞→単数・複数→純粋不可算名詞→…)。また、本書で「英語的な発想・感覚」という指摘が出てきた際に、それが理解できた時はやはり嬉しいですね。

 

医学部入試における男女差別(疑惑)の指標

 

東京新聞:複数医学部、入試不正疑い 大学名 文科省公表せず:社会(TOKYO Web)

 

 複数の大学医学部において、入試の際に性別・浪人であるかどうかによって受験生に異なる得点を与えていたというニュースの関連で、上の記事のように女子の合格率よりも男子の合格率が高い医学部のランキング(2013~2018年度)を見ました。

  ネット上ではこのランキングに載っている医学部では男女差別が行われているという断定的な風潮も見かけましたが、個人的に気になったのは個々の医学部で真に差別があるかどうかよりも、使われている指標についてでした。

 上記記事における男子優位のランキングは、(男子合格率/女子合格率)という、疫学の用語で言うところの「リスク比」(相対リスク)に基づいています。ただし、格差を見る際の指標は他にもいろいろとありうるものであり、かつざっと見たところ大学によって平均的な合格率が大きく異なるので、他の指標だとどうなるのかが気になりました。メジャーな指標としては、リスク差、オッズ比が考えられます。これらの関係は、男子合格率 =P(M)、女子合格率 =P(F)とした際に、以下のようになります。

 

  • リスク比: RR=P(M)/P(F)
  • リスク差: RD=P(M)-P(F)
  • オッズ比: OR=P(M)*(1-P(F))/P(F)*(1-P(M))

 

 これらを計算したのが下の表になります(確率は%表示)。

 

  P(M) P(F)   RR Rank   RD Rank   OR Rank
順天堂大 9.16 5.5   1.67 1   3.66 9   1.73 1
東北医科薬科大 14.69 9.51   1.54 2   5.18 8   1.64 3
昭和大 6.54 4.25   1.54 3   2.29 12   1.58 4
日本大 6.5 4.36   1.49 4   2.14 13   1.52 6
九州大 33.51 23.48   1.43 5   10.03 1   1.64 2
慶應義塾大 12.54 9.18   1.37 6   3.36 10   1.42 10
大阪市立大 32.63 24.01   1.36 7   8.62 2   1.53 5
埼玉医科大 5.04 3.74   1.35 8   1.3 15   1.37 13
新潟大 30.96 23.23   1.33 9   7.73 3   1.48 7
筑波大 25.46 19.28   1.32 10   6.18 6   1.43 9
岡山大 31.38 23.79   1.32 11   7.59 4   1.46 8
高知大 23.75 18.06   1.32 12   5.69 7   1.41 11
大阪医科大 11.28 8.65   1.30 13   2.63 11   1.34 14
東京医科大 6.79 5.27   1.29 14   1.52 14   1.31 15
山形大 28.67 22.28   1.29 15   6.39 5   1.40 12

 

  リスク差は合格率が高い場合の格差に敏感であり、リスク差に基づくと九州大が1位、大阪市立大が2位となります。オッズ比はリスク差ほどではないものの、合格率の上昇に対して敏感に反応します。また一般的に言われるように、リスク発生率が低い場合にはリスク比とオッズ比は近い値を取りますが、リスク発生率が高くなるにつれて両者の乖離は大きくなります。

 こちらの論文では、リスク比、リスク差、オッズ比が単調的な関係にはないことが図示され、注意が促されています。また主に解釈の容易さから、疫学の分野では症例対照研究でない限りはオッズ比よりもリスク比の使用を勧める文献が多いようです。ただしこちらの記事では、背後にある因果関係が変化していないにもかかわらず、リスク発生率が上昇するにつれて、リスク比は因果効果を過小評価する恐れがあることが述べられています。

researchmapのプロフィール

 

 researchmapのプロフィールって、更新日は表示されますが、どこが更新されたかひと目でわかる仕様にできないのでしょうか? 更新されたセクションに「New」みたいな表示がされてもよいと思うのですが。

木村誠『ランニングの成功法則』

 

ランニングの成功法則

ランニングの成功法則

 

 

 引き続き毎朝走っています。先週は風邪をひいてしまいましたが、調子が悪くとも5km以上は自分に課しています(村上春樹のエッセイを読んでいて、「走らないための言い訳はいくらでも作れるが、今日走らなかったらもう二度と走らなくなるだろう」というような一節が心に残りました)。

 本書は思っていた内容と少し違いましたが(むしろ自分が期待していたものを否定するような構成)、勉強になりました。いくつか具体的に挙げると、以下のような点です。

  • ランニング障害の多くは足の過回内から起きている。
  • ランニングフォームを意識して変えるのは難しく、モノ(シューズ、インソール)からアプローチを変えるのがより有効であることが多い。
  • ランニングフォームで変えやすいのは、下半身よりも上半身であり、特にお腹を高く保つように意識するのがよい。

 ストレッチ・トレーニングの章では、「ショートフット」という足指を動かすやつが自分には大事そうだと感じました。というのも自分の場合、走っている最中に土踏まずのあたりが攣りそうになることがしばしばあり、その辺りをうまく鍛えられている気がするので。