ロナルド・ドーア『イギリスの工場・日本の工場―労使関係の比較社会学』(上)

イギリスの工場・日本の工場―労使関係の比較社会学〈上〉 (ちくま学芸文庫)

イギリスの工場・日本の工場―労使関係の比較社会学〈上〉 (ちくま学芸文庫)

イングリッシュ・エレクトロニックと日立の工場を比較したケース・スタディ。収斂理論が大きな力を持っていた時代に,実証的な知見に基づいてイギリス・日本の両国の違いを明瞭に描いているというのは,今読んでも参考になる点が多々ある。

しかし,当時(1970年代前半)の背景とケース・スタディであることを十分に踏まえなければならないと思う。

時代背景に関して言えば,イギリスはサッチャー政権,高等教育はだんぜんエリート段階,日本もちろん55年体制以後ではあるけれども,それなりには社会党の影響力があったり,高等教育はマス段階に突入していたりと,政治・教育の文脈が二国間で異なっている。

工場労働者へのインタビューを見ていても,イギリスに関しては「ハマータウン」的な労働者階級のイメージを浮かべてそんなにずれていないような気がするが,その後は少なからず変化してきているのだろう。

ケース・スタディであることに関して言えば,あくまで工場内の人間関係・組織志向や,その家族との関連においてのパーソナリティ,性格が述べられているのであって,イギリス社会・日本社会一般の特徴であると必ずしも読みかえられないということに注意が要るのだと思う。

例えば,「日本人の方がすぐ何でも信じてしまうような単純さがある。(p.494)」とあるが,仮に日本人にそのような単純さがあるとすれば,(ドーアが調べた工場の中でのような)顔見知りの関係においてだけであり,見ず知らずの人に対する信頼が必ずしも高くないことは,山岸俊男安心社会から信頼社会へ』などを読むと分かる。