熊沢誠『働き者たち泣き笑顔―現代日本の労働・教育・経済社会システム』

企業が全人的なコミットメントを労働者に求める姿勢を批判するだけでは、「左翼的な権力の暴露」に終わってしまうとして、それだけではなく、労働者が企業に適応して「働いちゃう心理」に踏み込む必要があるという指摘が重要だと思った。

戦後民主主義教育に対する考察も面白い。著者はLearning to Labor"、すなわち『ハマータウンの野郎ども』の訳者なわけだが、イギリスの労働者階級と学校の関係をネガティヴに捉えるだけではなく、ポジティヴな面にも注目している。

イギリスのような上級学校へ進学するかどうかの選択に明確な階級の力学が働いている場合には、進学せずに働き始めたとしても、それが不面目になることはない。
しかし、日本のような(著者は使っていない言葉だが)「大衆化したメリトクラシー」が働く社会においては、進学しなかったことは自らの努力や能力が足らなかったのだという「言われのある格差」となる。このためノンエリートは働きに出始めてからも、「競争の勝者」である経営者に対して声をあげることに消極的になり、日本の労働運動が下火になっていったことにつながったという指摘で、興味深かった。